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ジャーナリスト・林信行の「万博の裏側を覗く」#2
時空を超えたコミュニケーション技術 —— NTTパビリオンが描く「つながり」の未来

- (写真提供:NTTパビリオン)
開催当初の前評判も、暑い夏もふきとばす勢いで盛り上がる大阪・関西万博。
万博に参加している多くのクリエイターとのつながりを駆使して、精力的に取材されているジャーナリスト・林信行さんが、テクノロジーとデザインを切り口に万博がどのようにつくられているのかをレポートします。
第2回は、「PARALLEL TRAVEL–パラレル トラベル–」をテーマにしたNTTパビリオン。1970年の大阪万博と今回の万博をつなぐPerfumeのパフォーマンスで人気を博しています。この時空の旅を実現した、最先端の通信技術(テクノロジー)と、3人のアーティスティックディレクターによる最先端の表現技術(テクニック)がうみだすケミストリーをひもときます。
編集:山田兼太郎(DISTANCE.media)
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Contents
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ゲート正面で来場者を出迎える生きたパビリオン
東ゲートと西ゲート —— 万博会場には2つの入り口がある。電車で来場するほとんどの人は東ゲートから入場する。行列に並ぶ間、ゲートの向こうには話題の大屋根リングが見える。入場パスのチェックを受け、手荷物検査を終えて中に入り大屋根リングへと向かうと、それを正面で出迎えてくれるのが、万博会場でも最も先進的なテクノロジーが体験できるパビリオンの1つ、NTTパビリオンとなっている。
パビリオンというと木などで出来た固い建物を思い浮かべる人が多いだろうが、NTTパビリオンはどこかとらえどころのない不思議な見た目をしている。
めざしたのは「パビリオン全体が蠢く、新しい生命体のようなパビリオン」だという。建物の一番外側は熱を跳ね返しながらはためく3万枚の小さな銀色の布の集合体になっていて、言われてみれば動物の皮膚のようだ。
驚くのは、この布の動きがただの風まかせではなく、パビリオンの中と連動していること。パビリオン内で体験している人々の表情をリアルタイムで分析して、笑顔が多ければ多いほど幕が激しく揺れて外にいる人々にパビリオン内の盛り上がりを伝えるのだという。まさに感情をまとった生物のようだ。
ちなみに銀色の布と聞くと、やや無機質な印象を持つかも知れないが、決してそんなことはない。写真を見てもらえば分かるように、実ははためく布と布の隙間から、赤、黄色、緑、紫などの色が交わるカラフルな内側の壁が覗き見えるからで、むしろ、この楽しそうな色が万博来場者を歓迎しているようにも見える。ちなみに涼しげになびくこの内壁の外装は14万枚の植物由来のカラフルな布を短冊状にしたものだという。

- パビリオンの建築はグループ会社、NTTファシリティーズが「感情をまとう建築」をテーマに手がけた。日本初カーボンファイバー構造による無柱のパビリオンとなっている。外装は紫外線をカットし日除け効果のある外側の銀色の布と一部能登の工場で製造された31色の自然に還る布。一部エリアにはワークショップに参加したNTTグループ社員約300名が編んだ雲のような天蓋布があしらわれている。(写真提供:NTTパビリオン)
パビリオンでの体験の予約が取れなかった人たちも、この風を感じる通路は楽しむことができる。通路にはそこかしこに炭素繊維のワイヤーが貼られており、そのワイヤーを引っ張って弾くと楽器のように音が奏でられ、これも楽しい。
実はNTTパビリオンを取り囲むこの通路は、万博常連者の隠れた人気スポットで夜の9時頃には名残惜しさを感じる来場者たちが、ちょっと遠回りしてこのNTTパビリオンの通路を通り抜けて東ゲートに向かう。風にはためく壁が心地よいだけでなく、その日の最後の記念にカラフルな壁を背景に記念撮影を楽しむ人も多い。
さらに詳しい人は、会場の外に置かれたNTTパビリオン閉館後も楽しめる2種類の展示を楽しむ。
1つは昭和世代には懐かしい赤、黄色、青の3色の公衆電話。これはただ歴史ある機械を見て懐かしむだけのものではない。扉に「運命」「かみなり」など10のタイトルが書かれ、3桁の番号が並んでいるので、それをダイアルすると、受話器の向こう側から、それらの公衆電話が現役だった時代を感じさせる小噺が聞こえてきて楽しいのだ。

- パビリオンの外には3台の公衆電話(1台は普通のプッシュホン)が置かれている。扉の部分に3桁の番号が書いてあり、それをダイアルすると小話を聞くことができる。(筆者撮影)
もう1つの展示は黄緑色の画面のついた電話。テレビ電話かと思うと、実は音とは映像だけでなく触覚(電話台を叩く振動)まで伝えてくれる「ふれあう伝話」という機械になっている。もう一台がNTTがスポンサーを務めるシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」[★01]★01の外に置かれており、そちら側に人がいれば700メートルほど離れたシグネチャーパビリオンエリアの混み具合を尋ねることができる。
2つの展示が示すのは「時間(時代)と空間を超えたコミュニケーション」——実はこれがパビリオン内の展示にも通じるテーマとなっている。
時空の旅の始まり、PARALLEL TRAVELの世界へ
NTTパビリオン内の体験は「時空を旅するパビリオン」を標榜しており、「PARALLEL TRAVEL–パラレル トラベル–」というタイトルがつけられている。
クリエーティブ・ディレクターは「クリエーティブ・ディレクター・コレクティブ(つづく)」の菅野薫。アーティスティックディレクターとして振り付けのMIKIKO、プログラミングの真鍋大度、ハードウェア担当の石橋素の3名も参画している。菅野、真鍋+石橋+MIKIKOと言えば、世界中で話題になった2016年リオ五輪閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーを仕掛けたチームでもあり、それだけでも期待が高まる。
同パビリオンで、時空の旅を可能にしているのがNTTが提唱している次世代の情報通信ネットワーク構想「IOWN (アイオン) 」——Innovative Optical and Wireless Networkの略だ。NTTは、この技術を使うことで「空間そのものの伝送も可能になる」としているが、世界初披露の「動的3D空間伝送再現技術」と「触覚振動音場提示技術」を使って実際にPerfumeのライブを時間と空間を超えて再現した体験が同パビリオン最大の目玉となっている。
正面から見ただけでは分かりにくいが、パビリオンは ZONE 1、2、3という3つの正方形の部屋を通路で繋いだ構造になっている。
ZONE 1は手紙、電報、電話からインターネットに至るまでのコミュニケーション技術の発達を振り返る展示になっており、正方形の一辺ではなく二辺を使った奥行きがあり視界を覆い尽くす映像でコミュニケーション技術を振り返る。
実は映像だけでなく本物の電信機(モールス信号を打つ機械)、ダイアル式の電話、プッシュフォンのワイヤレス電話、携帯電話、そしてスマートフォンの実物がガラスケースに入っており、映像に合わせて動き出す。電信機が動いているところなどは多くの来場者は見たことがないのではないだろうか。

- 「コミュニケーションの進化と、こえられない隔たり。テクノロジーの向こう側にある、感情や感覚とは。」と名付けられた映像とインスタレーションの展示。手紙から電信機、黒電話、ワイヤレスプッシュホン、そして携帯電話、スマートフォンと時と共に移ろってきた通信機器を見て懐かしがる来場者も多い。(写真提供:NTTパビリオン)

- 映像の進行に合わせて、ガラスケースに飾られた展示物にスポットライトが当たり、音が鳴ったり、動いたりする。ただの映像だけでの物語とは違って歴史ある本物がそこにあると、やはり心が動かされる。(写真提供:NTTパビリオン)
最後に紹介されるスマートフォンは、タブレットも含め多種多様なものが世界中に普及し、人々をつないでいることを物語るようにガラスケースの中だけでなく、天井にもたくさん貼り付けられており、ここにビデオ通話をしている様々な人種の人々の顔が映し出される。最初はスマートフォンのモック(模型)だと思っていたが、部屋が明るくなった状態でよく見てみると1つ1つが本物の製品のようだ。聞けばNTTドコモから大量の中古スマートフォンを借用して、それらがメインの映像に連動して映像が映るようにプログラムしたのだという。体験する人は是非とも天井にも注目をしてもらいたい。
ちなみに映像のタイトルは「コミュニケーションの進化と、越えられない隔たり。テクノロジーの向こう側にある、感情や感覚とは。」で、ノスタルジアを狙ったものではなく、これまでのテクノロジーでは伝えきれていなかった気配や空気があり、それをIOWNの技術で埋めていくのだ、という前向きなものになっている。
Perfumeが目の前に —— 空間伝送技術の真骨頂
さて、NTTパビリオン最大の目玉はIOWN技術を使った空間伝送で、これが体験できるのがZONE 2と呼ばれる2つ目の部屋だ。
床に格子模様が描かれたライブハウスのステージのような部屋だが、入室するときにもらった3Dメガネをかけてしばらく待っていると、目の前に1970年の万博会場とスペシャルパフォーマー、Perfumeの3人が現れ、新曲「ネビュラロマンス」を披露する。
3Dメガネで見ているせいもあるが、原寸大の本物のPerfumeが目の前数メートルのところで踊っていたかと思ったら、次の瞬間には高速移動して突如現れたビルの屋上に移動していたりと、歌に合わせてまるでカメラまで踊っているように目まぐるしく視点が変わったり、突然、Perfumeの3人が粒子になって分解してしまったりする映像は、一体どこまでが実写で、どこからがCG(コンピューターグラフィックス)なのかがわからない物凄い映像体験になっている。

- 最近、スポーツ中継でも自由視点でカメラアングルが変わるボリュメトリック映像の技術を見ることが増えたが、NTTパビリオンでは一台のカメラに3台のLiDAR (Light Detection And Ranging)を組み合わせた独自の「動的3D空間伝送再現技術」と高速伝送のIOWNを使って、より精度の高い3D表現を行なっている。(写真提供:NTTパビリオン)
ちなみに、Perfumeが本当に目の前で踊っているように感じるのは3Dメガネだけのせいではない。実はNTTは、この展示のために「触覚振動音場提示技術」を提供。Perfumeのパフォーマンスの音と映像だけでなく、ステップを踏んだ時の振動なども伝わってきているからだ。この技術、単に振動の強さや質感を伝えるだけでなく、ステージ上のどこで発生している振動かという位置の情報も再現されるため、よりリアルに感じるのだという。パビリオンのステージの床には128個の振動子が埋め込まれているという。
ほとんどの人は、見ながら「最新技術によって作り込まれた体験は凄い」と驚くはずだ。しかし、注意深い人は、もっと大きな衝撃を受けることになる。映像の冒頭では「2025年4月2日 万博記念公園」といった文字が表示される。
実はこの体験(映像+音+振動)は、大阪・関西万博開幕直前のこの日、Perfumeが1970年の大阪万博の電気通信館があった場所で実際に行ったライブパフォーマンスの追体験となっている。ライブ映像を一度、記録して後からじっくり時間をかけて編集・加工したのではなく、ライブ中にリアルタイムで映像をミックスしNTT館に中継(空間伝送)されたそのままの内容の記録。4月2日当日は、20キロメートル離れた会場で行われたPerfumeのライブをNTT館の中で招待を受けたメディアや関係者が、現在展示されているままの状態で見たと聞くと、これが言葉通り「空間伝送」の凄い技術であることがわかるかも知れない。

- 万博開始直前の4月2日、Perfumeが55年前の万博でNTTの前身、電電公社のパビリオン、電気通信館の前でライブを行い、その様子が20Km離れたNTTパビリオンに空間伝送された。ライブの冒頭ではCGで再現された1970年の万博の会場風景も登場。懐かしむ声が聞こえた。(写真提供:NTTパビリオン)
今回は菅野薫という卓越した感性を持つクリエーティブディレクターと、彼らをよく理解し心躍る振り付けをする振付師のMIKIKO、そしてMIKIKOのディレクション通りに精密なダンスパフォーマンスをすることができるPerfumeの3者それぞれの最高の技術力を合わせたからこそできた奇跡の空間伝送と言えるが、もしかしたら未来にはこうした技術を持つ人が増えたり、同様の技術を持つAIが登場することで、こうした空間伝送が当たり前になる日も来るのかも知れない。
ただ、少なくとも現時点においてはNTTパビリオンでしか見られない最先端の空間体験のはずだ。
最先端テクノロジーが凝縮されたパビリオン
3つの部屋からなるNTTパビリオン、最後の部屋、ZONE 3では、専用の装置の前にて立って全身を撮影すると、自分や他の来場者たちの分身「Another Me」が、スクリーン上に表示され、見た目が変化したり、踊り出したりする様子を楽しめる映像体験になっている。
IOWNは従来の電気信号中心のコンピューティングから光信号へのパラダイムシフトをめざした技術で、より高速、大容量、低遅延なのに加え、より低消費電力な点も特徴になっているという。京橋駅近くのNTT西日本本社に初めて実装された「光電融合デバイス」は、従来比8分の1という劇的な消費電力削減を実現した。2030年代には100分の1まで削減する計画だという。
今、まさに訪れようとしているAI時代には、消費電力爆発という地球規模の課題もあるが、IOWNは、まさにその1つの解答となっている。

- ZONE 3内には数台、来場者の全身写真を撮影する装置が設置されている。これで撮影すると自分の全身像がスクリーンに映し出され、顔年齢が変化したりキレ良く踊ったりする様子を楽しむことができる。(写真提供:NTTパビリオン)
NTTパビリオンは、まさにそうした先進技術の塊で、通常のパビリオン体験だけではわからないところでも多くの最新技術が使われている。
たとえば、冒頭で説明したパビリオンの外装。ZONE 2の内部に設置された5台のカメラが、来場者の表情を1秒に1回の頻度で分析し、「笑顔の人数」を算出しており、その結果に応じて、パビリオン外周を囲む格子状のシートを揺らしている。IOWNによりカメラ映像を大阪市京橋駅近くのNTT西日本本社に伝送し、光コンピューティングによるAI分析を経て、分析結果を元にシートを動作させているという。
さらにはパビリオンの外部にも高さ4〜8メートルのところに16台のカメラが設置され、映像から人物を検出し、混雑度を算出したり、万が一、来場者が転倒した場合にはキャストが駆けつける「身体行動理解技術」も実装したという。
しかし、やはりなんといっても花形はPerfumeのパフォーマンスの空間伝送だろう。
万博記念公園に10メートル×15メートルのパフォーマンスをするためのステージを構築。ステージの周囲には、動的3D空間を計測する7セットの計測装置、振動位置をトラッキングする28台のカメラ、さらにはステレオ映像を撮影する4K解像度の3Dカメラが4セット設置された。それに加えた歌声を拾うピンマイクや足元の触覚振動を拾うためにブーツの底面に振動センサーが取り付けられたという。精度の高いLiDARというレーザー測量装置でも捉えられたPerfumeの姿は、好きなカメラアングルで表示できる動的3Dデータに変換され、それに触覚振動データ、ステレオカメラデータ、音声データを加えた総伝送量25Gbit/sとしてIOWN技術でNTTパビリオンに伝送。
まさに最先端の技術(テクノロジー)と、3人のアーティスティックディレクターによる最先端の技術(テクニック)が組み合わさったからこそ可能な展示になっている。
しかし、最先端の技術が詰まったパビリオンではあるが、最終的に大事なのは技術ではないとクリエイティブ・ディレクターの菅野薫はいう。
「黒電話から始まった現代の通信の技術。今のインターネットでは世界中の様々な人がつながるようになったけれど、それでも分断は無くならず、争いはむしろ増える一方。その中でNTTはどうやったらつながりを豊かにできるのか。技術発展の凄さではなく、新しい技術が社会や人間の未来に何をもたらすのか」を課題にして取り組んだという。
これから訪問する人には、そんなNTTの眼差しもどこかで感じながら未来の体験をしてもらいたいと思う。
ジャーナリスト・林信行の「万博の裏側を覗く」
#1 ディスプレイされた中身ではなく、ディスプレイする技術を覗く
#2 時空を超えたコミュニケーション技術 —— NTTパビリオンが描く「つながり」の未来
#3 万博に見る海の未来――青き地球の羅針盤
★01 生物学者の福岡伸一が出がけたシグネイチャーパビリオン。このパビリオンに関しては、DISTANCEの以下の記事でも、詳しくとりあげている。
福岡伸一、万博《いのち動的平衡館》で伝えたかったこと(全4回)
#1 思想篇 岡本太郎のアンチテーゼを引きうける
#2 対話篇 生命を輝かせるテクノロジーとは
#3 建築篇 建築は生命を宿せないのか
#4 展示篇 デザインエンジニアリングの3つの振り子―展示制作の舞台裏

- 林信行はやし・のぶゆき
- テクノロジー、デザイン、アートを基軸に22世紀に残すべき価値を模索し発信するジャーナリスト/コンサルタント。1990年からITの最前線や道を、その道を切り拓いたパイオニアを数多く取材。2010年頃からテクノロジーは必ずしも人を豊かにしないと考え良い未来を生み出すデザイン視点の活動に軸足を移す。またAIの足音が聞こえ始めた2015年頃からはそもそも何が重要かを問う現代アートや教育や伝統文化の取材などにも活動領域を広げている。「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」など著書多数。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。Nobi(ノビ)の愛称で知られている。 Photo: Koichi Mitsui