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ジャーナリスト・林信行の「万博の裏側を覗く」#1

ディスプレイされた中身ではなく、ディスプレイする技術を覗く

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Photo: ©︎Taiki Fukao

開幕から3カ月経った大阪・関西万博。個々のパビリオンの評判は単発的に聞こえるものの、予約システムであったり、取材システムに阻まれて、いまだ俯瞰的な視点からのレポート・記事は多くありません。そんななか、これまでの個人的な実績・人脈を駆使して、精力的に万博を取材されている、ジャーナリスト・林信行さんに、テクノロジーとデザインを切り口に、万博を横断的にレポートしていただきます。

第1回で注目するのは「ディスプレイテクノロジー」。すでに、社会に浸透している大型ディスプレイではありますが、その進化はサイズにとどまらないようです。今回取り上げるのは、韓国館、スペイン館、「Blue Ocean Dome」、フランス館、福岡伸一「いのち動的平衡館」、小山薫堂「EARTH MART」、落合陽一「null²」。

編集:山田兼太郎(DISTANCE.media) 

Contents

    万博で一番未来を感じるのはディスプレイ技術

    王室や宰相などさまざまな国の国賓が訪れたり、美術館でも見られないアート作品を目当てに連日大行列ができたり、世界のさまざまな地域の伝統的な音楽や舞踊、パフォーマンスなどが毎日のように行われていたりと、開幕から2カ月半が経った大阪・関西万博は日々、ソーシャルメディアを多くの話題で満たしている。

    そんな万博も間もなく、3カ月目の折り返し地点。これまでの報道はパビリオンの展示内容など、「見どころ」に焦点を当てたものが多かったが、この数回の連載では、もう1歩踏み込んだ展示の裏側に迫ってみたい。

    今回は、万博で使われている最新の「ディスプレイテクノロジー」やその使われ方にスポットライトを当ててみたい。なお、執筆時点で万博会場には8回ほど足を運んでいるが、全180あるパビリオンのうち見られているのは1割ほど。あくまでも、ここまでみた範囲での主観による記事であることをご理解いただきたい。

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    1970年の大阪万博は宇宙開発やロボットなど未来社会を垣間見るイベントだった。今回の万博でも空飛ぶクルマや最先端の医療技術を中心に多くの未来のテクノロジーが紹介されている。しかし、いつ現実になるのかわからない近未来のテクノロジー以上に心を踊らされるのが、万博会場で既に実際に形になっているテクノロジーだ。特に目についたのが、情報の世紀の万博を彩る最先端ディスプレイ技術だ。

    万博会場で使われているさまざまなディスプレイの中で、おそらく一番存在感があるのは韓国パビリオンの外壁を覆う幅27m、高さ10m(約1134インチ相当)の非常に明るいLG電子製のLEDディスプレイだろう。基板に直接発光ダイオードを実装するSMD(Surface Mount Device)という技術で作られている。韓国の四季の自然、文化遺産に加え、映像制作会社のEASYWITHが独自開発の生成AIモデルで描いた韓国の都市化・産業化・技術発展を視覚化したコンテンツを流している。「IP65」等級の高い防水・防塵性能を備えているからこそ、大屋根リングからも見下ろせる雨ざらしのディスプレイとなっている。

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    韓国館の大屋根リング側の外壁を覆うメディアファサード。幅27mという圧倒的な大きさもすごいが、日差しが強い中でもしっかりと存在感を放つディスプレイの明るさ、そして雨風にさらされても大丈夫な防塵防水性能の高さにも驚かされる。LG電子製。

    おそらく会場でこれに続く大型ディスプレイは、野外イベント会場である、EXPOアリーナ「Matsuri」に置かれたEXPO VISION。670インチのディスプレイの左右に、520インチのディスプレイを1つずつ配置した構成のもの。3つのディスプレイを合わせるとほぼ韓国館のディスプレイと同じ表示面積になる。このことからも韓国館のディスプレイの巨大さがわかる。

    大きさでは韓国館に及ばないながらも、複数のディスプレイを並べて没入感や臨場感を追求しているパビリオンは多い。アメリカパビリオンは縦長の巨大ディスプレイ3枚と鏡で来場者の周囲を取り囲むことで没入感のある宇宙旅行の体験を作り出している。オーストラリア館は洞窟のような形のシアターの奥の壁から天井に向かってサイズの違う巨大ディスプレイを5面並べ、さらに左右にも20面ほどの大きさの異なるディスプレイを並べてシアターを囲むことでオーストラリアの自然への没入体験を作り出している。

    筆者のお気に入りはスマート・アンド・グリーン・デザインのデザイナー、フェルナンド・ムーニョスが展示を手掛けたスペイン館だ。スペインと日本をつなぐ海にまつわるさまざまな物語を紹介している最初の部屋のそこかしこに、60インチ級のディスプレイがまるで海藻のように配置されている。左右の向きが違うだけでなく、首を垂れるように下を向いているものや上を向いているものなどを混ぜた表現が、これまでにない立体感を生み出していて斬新だった。

    また3Dホログラムディスプレイファンの使い方も面白かった。3Dホログラムディスプレイファンとは、LEDの付いた棒が角度を変えながら回転することで立体的に見える映像を映し出す装置だ。万博会場では他にも住友館などでも使われているが、スペイン館ではこれをガラスシャーレのような美しい容器に収めて展示することで、何か少し未来的でエレガントな映像装置として演出していた。

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    スペイン館の風力発電の展示では「3Dホログラムディスプレイファン」を大型のガラスシャーレのようなものに収めてワイヤーフレーム映像を映し出していた。わざわざガラスの額に収めることで通常のディスプレイファンとは異なる印象に仕上がっていた。背後には海藻のように生えるディスプレイが見えている。写真提供:スペイン館

    「Blue Ocean Dome」が見せた半球型ディスプレイの可能性

    多くのパビリオンがディスプレイを立体的に配置していたのは、なんとか平面のディスプレイを使って立体感を表現したかったからだと思うが、この立体感を表現するために独自のディスプレイを作ってしまったパビリオンがある。

    循環型社会の実現を目指すNPO、ZERI JAPANによる民間パビリオン「Blue Ocean Dome」だ。日本を代表するグラフィックデザイナーの原研哉が展示プロデューサーを務め、同じく日本を代表する建築家の坂茂が世界初のCFRP (炭素繊維強化プラスチック) ドームを含む3つのドームで作ったパビリオンだ。注目の展示は、2つ目のCFRP製ドームにある。

    ドームに入ると天井ギリギリに迫る直径13.2mの黒い巨大な円形の構造物が立っており、その真ん中に直径10mの巨大な地球の映像が浮かびゆっくりと回転している。この地球が表示されている部分が半球型のディスプレイで、その周りに巨大な黒い傘を被せたような不思議な構造だ。

    体験が始まり照明が落ちるとその理由がわかる。まるで真っ暗闇な宇宙空間に地球が浮遊しているように見えるのだ。小さな島々まで鮮明に描かれていることから、ディスプレイが驚くほど高精細だとわかる。

    しばらくすると海中の映像に切り替わる。そこからナレーションも字幕もない7分の映像で、多様な生物が平和に暮らしている海に起こりつつある変化の様子が映し出される。危機を煽る情報も教訓めいたメッセージもないことが、逆に鮮烈な印象を残す。

    表示されていた映像も面白い。冒頭はまるで本物の地球を宇宙から見ているような感覚で、球面を感じていたが、海中のシーンでは海中の生物がこちらに迫ってくる様子が迫力ある3D映像のように見える(ディスプレイの奥行きをうまく活用しているのだ)。かと思えば、まるで平面ディスプレイのように感じさせる瞬間もある。

    この映像の魔法を作り出したのは日本を代表するビジュアルスタジオのWOW。原研哉からの「宇宙から見た地球を作りたい」という構想を形にするために、自由曲面ディスプレイの技術を持つアズラボ株式会社の協力を得て、半球型の骨組みの中に柔軟に湾曲する2200枚のディスプレイを埋め込んで作ったという。

    ディスプレイ、映像、来場者との距離、見る角度など、すべてを緻密に計算したからこそ実現した映像のマジックだという。

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    「Blue Ocean Dome」の半球型ディスプレイの前に立つプロデューサーの原研哉氏と比べるといかに大きいかがわかる。外交の写り込みを防ぐ笠の部分は光を反射しにくい「暗黒ブラック」という特殊塗料で着色。そのおかげでCFRPドームの骨組み構造がわかるように外光が透けている昼間でも美しい表示を楽しむことができる。Photo: ©︎Taiki Fukao

    2つのパビリオンに見るボリュメトリックLED表現の可能性

    大型でも高精細でもないが、不思議と見る人を惹きつける映像に取り組んでいたパビリオンもある。フランス館と、生物学者の福岡伸一がプロデュースするシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」だ。どちらもLED光源が並べられた棒を立体的に配置し、それを制御することで、立体的なドット絵のアニメーションを生み出すボリュメトリックLEDディスプレイという表現手法を用いている。しかし、まったく異なった表現になっているのが面白い。

    フランス館は、3階の天井から2階部分まで伸びるLEDロッド(棒)を大量に吊るして、そこに配置された140万球にも及ぶマルチカラーLEDを用いて、ノートルダム大聖堂と首里城を襲った火災の炎であったり、フランスと日本を繋ぐ「赤い糸」、そして展示のテーマでもある「pulse(鼓動)」をダイナミックなアニメーションで描き出している。目玉は地上階から頭上に吊るされたロッドに浮かび上がる映像を見ることだが、長いロッドの特性を活かして、パビリオンのスタート地点である3階部分でも映像の一部を伏線として見せている。

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    フランス館ではフランスと日本をつなぐ絆を表すアニメーションを天井から吊るされた大量のLEDロッドを使ったボリュメトリック表示で表現していた。Photo: ©Julien Lanoo

    これに対して「いのち動的平衡館」では、デザインファームのtakramが、パビリオン内の直径10mほどのエリアに高さ2.5mの大量のLEDロッドを配置して、その上に青白い光を放つ単色LEDを32万球を配置した「クラスラ」というディスプレイシステムを開発(クラスラは細胞の内部を⽀えている⾻組み構造の名前)。

    そこを舞台に、福岡が考える地球上で38億年続いてきた生命のドラマを描き出している。どこかまばらで、それ故おぼろげな影絵のような光のシルエット、その繊細な表現が逆に神秘的な印象をもたらしている。巨大生物が走り抜けていくシーンなど躍動感のあるシーンもあるが、色彩も表現もミニマルな点である意味、非常に日本らしい。同じ表現方法でありながらもこれだけの好対照を成しているのが逆に面白い。

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    takramが、福岡伸一「いのち動的平衡館」のために作ったLEDロッドによる表示装置「クラスラ」。生命38億年の物語が、おぼろげなシルエットの映像として浮かび上がる。あえて色彩などを使わないミニマルで、それ故に想像力を掻き立てる。Photo: Junpei Kato

    開花した透過型ディスプレイのポテンシャル

    立体感というのは映像そのものの奥行きで伝わるものではない、と教えてくれるのが、向こう側が透けて見える透過型LEDディスプレイだ。人目をひく映像表現の手段として万博会場のそこかしこで使われている。おそらく最も多く活用しているのは大阪ヘルスケアパビリオンだろう。多数の企業が出展する同パビリオンでは、教科書出版会社「東京書籍」の未来の公教育の展示ブースや、合成肉を作る3Dプリンターなど数カ所で透過型LEDを活用していた。筆者が見たいくつかのパビリオンの中で、これを最もうまく活用していたのが放送作家の小山薫堂がプロデュースしたシグネチャーパビリオン「EARTH MART」の展示だろう。

    映画『二郎は鮨の夢を見る』が海外でも話題になり、今や世界一有名な寿司職人である小野二郎が、パビリオン内に置かれた円形の寿司カウンターの向こう側で、寿司を握る映像が映し出される。透過型ディスプレイなので、原寸大の小野の映像が透けて見え、背後にある壁などが見えてしまうのだが、この奥行きが映像に不思議な立体感を与え、初めて見た人の多くが「立体映像!?」と感嘆の声を上げる。ちなみに映し出されている映像では、普段は天然物しか握らない小野二郎が、養殖ネタで寿司を握っている。別の映像では彼が地球環境の変化で、これからは養殖魚に頼らざるをえない状況も出てくると時代変化を語っている。

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    小山薫堂プロデュースの「EARTH MART」。養殖魚に関する展示では、お寿司の神様と呼ばれ天然魚しか使わないことで知られる小野二郎が養殖魚を握る映像が透過型ディスプレイに映し出される。写真では映像の上にモアレ模様が出てしまうが、実際に見ると本当に目の前に本人がいるような妙な生々しさがある。

    落合陽一が生み出した2つの映像装置

    最後にもう1つソーシャルメディアでも話題のアーティスト、落合陽一によるシグネチャーパビリオン「null²」についても触れないわけにはいかない。パビリオン全体が鏡面になっているのだが、その内部は無限に続く映像の海のようになっている。

    パビリオンの狙いは落合が考える人・モノ・自然・計算機・データが接続され脱構造化された新しい自然「デジタルネイチャー(計算機自然)」の世界観を体現することだ。予約来場した人の全身3Dスキャンを元に投影される自分の分身「Mirrored Body」が、無限に続く映像の中で流動的に変形する様子を体験しながら、「自己が溶け込む」感覚を体験できる。

    このまるでディスプレイの中に入ったような没入感は、1辺8メートルのハーフミラーの壁で囲まれた部屋で、天井と床を全面ディスプレイにすることによって生み出されている。反射質の高いハーフミラーなので約5回分の反射まではっきり見えるため、視界が全て映像で埋め尽くされることになる。落合はその空間で映像の変化だけでなく、ロボットアームの先に取り付けられたディスプレイを動かすなど、物理的な変化も加えることによって、人類の誰もが見たことのない映像体験を形にしている。

    なお、落合は鏡そのものを「超高速・高精細なディスプレイ装置」と見立てているので、そういう意味では、同館の外装もディスプレイだと言える。落合はこの外装を周囲の景色が映り込む「風景の変換装置」と呼んでいる。確かに鏡に映った像は、ちょっと歩いただけで表示が大きく変わる。だが、落合はそれだけでは飽き足らず、この鏡面膜にアクチュエーターを使って振動をさせたり、低音スピーカーを使ってさざなみを立たせたり、ロボットアームを使って捻ったりと形状を変化させることでさらに大きな風景の変換を生み出している。

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    落合陽一プロデュースの「null²」の内側はデジタルの鏡として、3Dスキャンした来場者の身体を東映し変換し自己と世界の境界が曖昧になる瞑想のような体験を提供している。一人でも多くの人に体験してもらいたいが、抽選倍率は100倍以上と大阪・関西万博の全パビリオンの中でも最も高い。こちらも映像は「Blue Ocean Dome」と同じWOWが手掛けている。 Photo: 落合陽一

    これだけ多くの映像表現方法が一堂に介しているという点でも、大阪・関西万博は、これからの映像表現を模索しているアーティストやクリエイターにとっても注目のイベントと言えよう。

    なお、追加取材に応じてくれたクリエイター達は口々に、大事なのは使われた技術ではなく、そこで語ったストーリーであると語っている。ぜひ会場では、ディスプレイそのもの以上にそこで語られているストーリーを堪能してもらえればと思う。


    ジャーナリスト・林信行の「万博の裏側を覗く」

    #1 ディスプレイされた中身ではなく、ディスプレイする技術を覗く
    #2 時空を超えたコミュニケーション技術 —— NTTパビリオンが描く「つながり」の未来
    #3 万博に見る海の未来――青き地球の羅針盤

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    林信行 はやし・のぶゆき
    テクノロジー、デザイン、アートを基軸に22世紀に残すべき価値を模索し発信するジャーナリスト/コンサルタント。1990年からITの最前線や道を、その道を切り拓いたパイオニアを数多く取材。2010年頃からテクノロジーは必ずしも人を豊かにしないと考え良い未来を生み出すデザイン視点の活動に軸足を移す。またAIの足音が聞こえ始めた2015年頃からはそもそも何が重要かを問う現代アートや教育や伝統文化の取材などにも活動領域を広げている。「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」など著書多数。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。Nobi(ノビ)の愛称で知られている。 Photo: Koichi Mitsui

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