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DISTANCE.media編集会議2026 ドミニク・チェン × 田中みゆき × 山本貴光 #3

生成AIと報われたい願望

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場所: LIFORK原宿(WITH HARAJUKU3階)

メディアのこれからのあり方について考える「弱いメディアラボ」。ますます便利になるスマホ、と同時に、スマホ依存へのいら立ちを抱えている人が増えているように感じる昨今。編集委員であるドミニク・チェンさん、山本貴光さん、田中みゆきさんが集まり、SNSやスマホ、生成AIといった身近なテクノロジーとの適切な距離(ディスタンス)のとり方について話し合いました。第3回は、生成AIについて、タイパ・コスパといった短期的視点からではなく、中長期的な視点から活かす方法について会話を巡らせます。

写真:高橋宗正
ライティング:宮崎慎也
編集:山田兼太郎
協力:LIFORK原宿(NTT都市開発)

Contents

    生成AIの間の悪さ

    ―前回はSNSについて話してきましたが、今回はChatGPTなどの生成AIについて話したいと思います。みなさんはどうお考えですか?

    山本貴光 ちょっと前に、インドのAI企業が破綻したというニュースがあって、実際はAIではなく裏側で数百人の人間がAIのふりをして働いていたという笑い話もありましたね。

    ドミニク・チェン 2000年代から「アマゾンメカニカルターク」というサービスがありますよね。コンピュータよりも人間のほうが得意な作業を、登録したワーカーに割り当てるというサービスです。この名称の由来になっているのは「機械じかけのトルコ人(The Turk)」という機械人形の話です。18世紀につくられたチェスがプレイできる自動人形のことで、人形がチェスがプレイできることにみんな驚いたそうです。ですが、実は機械の中に背の低い人間が入って動かしていた。その逸話を由来にしたネーミングです。人間が代わりに作業するというのは、現在のクラウドソーシングのさきがけとなったサービスですね。

    山本 大学の同僚の先生がレポートの採点をしていると、生成AIで出力させたレポートが多くなっていて、こういうレポートばかり読んでいると、かえって下手でも自分で書いている人の文章を評価したくなると言っていました。とても愛おしくなるそうです。文章としてはダメだけど自力で書いて偉い、みたいな(笑)。

    ドミニク 逆に生成AIで書いてないけど、めちゃくちゃうまい人がすごい損してるかもしれないですね。

    田中みゆき 生成AIの利用は、客観化できる情報だったら全然いいと思うんです。ですが、すごくパーソナルなものや、ある人が泣きながら話したことを編集してもらったときに、ただ情報だけが抽出されてしまい、「間」みたいなものが、全部消去されていたことがありました。

    人と話すときは、やっぱり「間」とか「相槌」も重要です。そういうものがすべて平均化されてしまうことにすごく違和感が残ります。インタビューや会話には、「うまくいかなさ」こそが物語ってるときもあると思うんです。そういうものがないものにされるところに限界を感じますね。

    ドミニク ぼくは吃音当事者ですが、インタビューなどで自分がちょっとでもどもりそうなっているところなどは、後で聞くのは結構苦痛なんですが、一方でそういうのが全部滑らかになってしまうと、耳心地は良くなるだろうけど、もはや自分じゃないっていう感覚がありますね。

    山本 それは、アニメや映画の吹き替えの声優さんのセリフを聞いてるときに私がいつも感じる、ちょっとしたモヤモヤに似ています。吹き替えのセリフを耳にすると、人はこんなに滑らかに喋らないよなあという気持ちになっちゃうんですよね。映画監督のロベール・ブレッソン[★01]★01はプロではなく素人を起用したことで知られていますが、同じように声優ではない人に担当してもらうことで自然さを狙う作品もありますね。これと似て、生成AIがつくったPodcastでは、トークがうますぎるので、若干気持ちがソワソワしちゃいます。

    田中 相槌ひとつとっても、会話を前に進めるための相槌だなって思っちゃいますね。

    山本 逆に、意味のない会話や目的のないおしゃべりをさせてみたときに、どういう「間」になるかは聞いてみたい気がしますね。

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    AIに相談する人々

    ―最近ではChatGPTなどを自分のカウンセリングに使う人が増えているようですね。

    山本 まずはなんでも肯定してくれますからね。

    ドミニク 「Anthropic」という生成AIの企業は、その「イエスマン問題」に対処して、何でもかんでも肯定しないようにトレーニングしているらしいですね。映画の『her/世界でひとつの彼女』[★02]★02みたいになってしまいますからね。

    山本 AIに相談すると、同じ悩みを持った人の意見も提示したりして、自分の悩みを相対化できるというか、他にも同じように悩む人がいるんだと気づけるという利点はありそうですね。

    ドミニク 一方で、ChatGPTの「DeepResearch」のような調査ツールはとても優秀ですよね。つまり、代行Google検索なんですよね。その使い方であれば、エビデンスをかき集めてくれるので、AIとの適切な距離感は取れる気がしています。だからこそ、ソースや出典を出さずにスラスラ言ってくるときには結構怖い感じがしますね。

    田中 AI相談に依存してしまう人も増えているようですね。

    ドミニク ChatGPTとのセッションという檻の中に、1人1人が閉じこもって、より良いアイディアを探したり、より良いアウトプットを作ろうとしてる状況は、前回議論したようなある種の孤立や依存のような状況に近い気がしています。たとえばChatGPTで何か話して、このアイデアいいなと思ったことを、田中さんや山本さんに話してみようと思えて、行動につながることが大事だと思っています。そうではなく、単純に「よし、なんかいいアイデア出たぞ、誰にも言わないで俺が書いたことにしよう」となると、自分の報酬系を満たしているだけになりますよね。

    山本 自分の中に閉じてしまうと、そこで完結してしまいますよね。

    ドミニク 僕は去年ハードな仕事を結構やってたんですが、すごく忙しい時に現実逃避のために昔からつくりたかったスマホアプリを作り始めたんですよ。自分一人ではつくれないと思っていたんですが、ChatGPTに仕様を全部伝えてみたら、今まで使ったことがない言語で、パッとつくってきて、実行したら動いたんです。ほぼ自分がやりたかったことを実行できて、報酬系がドバドバと活性化されました(笑)。

    一人でやろうとしたら数十時間はかかるものを、ChatGPTのおかげで10時間くらいで完成しました。これはすごいことで、プログラミングやコーディングはもう生成AI抜きでは考えられない時代になったことを実感しました。

    でも、いま改めて振り返ると、その体験自体はあんまり面白いものではないなと思いました。そうではなくて、実際に一緒につくる仲間を見つけて、仲間と一緒にAIを使いながら、つくりたいものをつくるっていうふうに進め方を変えたら、なんかすごく「これこれ、こういうことだよ!」と思えたんです。

    田中 それは前回議論した、ある種の自助グループみたいなものですよね。

    ドミニク そうかもしれません。人生がつらくて、コーディングすることに癒しを求めてる人たちのグループだったのかも(笑)。あのまま1人でずっとつくり続けてしまったら、タコツボになっていたかもしれません。

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    自分のやりたいことをAIは導けない

    ―教育現場でのAIの利用についてはどうお考えですか?

    ドミニク 最近では、場合によっては推奨するようにしてます。Google検索のリテラシーがそもそも低い人たちも増えしまっていて、SNSで探そうとする学生も増えています。それよりはChatGPTにきちんとしたプロンプトで検索させる方が、ちゃんとしたリサーチになりますよね。

    山本 私も同じです。そうしないとYouTubeの怪しい動画で得た知識を平気で書いてくる学生もいます。使うならちゃんとプロンプトを工夫して使うようにするといい。ただし、プロンプトを工夫するためには、ある程度自分の頭の中に知識がマッピングされていないと難しい。訓練が必要なことだと思います。

    さらに「自分が何をしたいか」という部分は自分から出すしかありません。その「何をしたいか」という部分は、ドミニクさんもおっしゃるように、おそらく他の人がいないとダメなんだと思うんです。他の人とのやり取りから、自分のやりたいことが出てくる。

    ドミニク それもまた「イエスマン問題」ですよね。AIは違う意見は言わないので。

    山本 AIはある種の鏡のようなものでしかないとしたら、鏡の外を見みるにはどうするかというのが問題になりますよね。スマホとChatGPTが便利すぎて、ここで閉じてしまうと依存や閉鎖的になってしまいそうですね。

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    報われ消費と批評

    ―文芸評論家の三宅香帆さんが「ググるからジピるへ」という記事[★03]★03で、若者にとってはGoogle検索(ググる)よりもChatGPT(ジピる)の方が「報われる」から、より使われているという話をしていました。この報われる感覚についてどう思いますか?

    ドミニク 「報われる」という表現はまさに報酬系ですよね。ChatGPTの方が端的に答えを出してくれて、報われ度が高いと感じるんでしょうか。

    山本 考察ブームにも関連して話されていましたね。映画やアニメなどを考察するのが流行っていますが、考察して、それが正解だと報酬系が満たされる。これはこれまでも何度も流行してることではあって、一昔前なら『磯野家の謎』みたいなものもあれば、『エヴァンゲリオン』でも考察がたくさんありました。当時、最新回が放送されるたび、友人が「死海文書って何?」「ロンギヌスってどういうもの?」と聞きにきていましたが、この場合、ある種の正解がある謎解きみたいなものですよね。謎が解けると納得して報われる。

    こういった考察は批評の一部ではあるけれど、批評とは異なるものだと思います。新しい価値を見出すということではなく、正解を探している。その正解がわかると、安心して報われた気がする。

    私にとっての「批評」はどちらかというと不安になるものだと思います。ある作品に触れて自分はこう思ったんだけど、批評家は全然違う見方をしていて、ショックを受けるといった体験もありますよね。それは考察や報われることとは大きく異なります。作品の解釈が決着しないことをむしろ面白がるという体験は少なくなっているのかもしれません。

    田中 考察は正解に収束していくものですが、批評は逆に広げていくイメージですよね。広がりすぎると不安になるから、報われ度は低くなるということでしょうか。

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    「死にゲー」の報われなさ

    ドミニク それで思い出すのが、いわゆる「死にゲー」です。最近はインディーゲームなどで多いのですが、クリアするために何度も死んで、やり直して、何十時間もかけてクリアをめざすというものです。ぼくは好きなジャンルなんですが、1000回死んで、何度もやり直すことで山のてっぺんに登るようなゲームもあります。だいたい2週間ぐらいかかって、ようやくクリアすると自己肯定感がとても高くなります。

    山本 難易度が高いと、なかなか報われないですよね(笑)。

    ドミニク その代わりクリアした時の報われ度がすごい(笑)。『メタファ―――リファンタジオ』というRPGゲームの戦闘システムを作っている人がインタビューの中で、RPGのバトルは「もう死ぬかも」とプレイヤーに思わせたり、実際に1回死なせて次のバトルで勝つという経験が一番いいんだと話されていました。ひたすら接待されて、なんでもうまくいくようなRPGではなくて、一度失敗したり挫折することで、プレイヤーはより深くゲームを楽しめる。これは、先程の報われ度でいうと短期では報われていないんですが、自信につながったり、新たな発見に繋がっていくと思います。

    田中 それは面白いですね。私は「報われる」という表現自体がとても気になっていて。自分の時間はそんなに価値があるのかと思ってしまいます。なんでそんなに報われたいと思ってしまうんだろうなと。そこには、自分の時間は限られていて貴重だという前提があるわけですよね。自分を高く見積もりすぎている気がします。

    ドミニク たしかにそうかもしれません。この「死にゲー」での体験は、短期的な快楽を満たすものではなくて、古代ギリシアの言葉でいう「ユーダイモニア(生きがい)」[★04]★04と呼ばれるものに近いと思います。ぼくにとっては、死にゲーのような体験の方が、ユーダイモニアが得られるのかもしれません。でもそのためにはコストが高くて、タイパやコスパは良くないんですよね。この考え方は目の前の報酬が手っ取り早く貰えるというものではないので忌避されているかもしれません。この中長期的な視点で、生成AIを活かすことを考えたいです。

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    DISTANCE.media編集会議2026

    #1 SNS依存とスロー・ルッキング
    #2 スマホが加速する「エイブリズム」
    #3 生成AIと報われたい願望
    #4 読書と遊びと摩擦のすすめ

    ★01 フランスの映画監督。俳優を「モデル」として扱い、抑制された演出と簡潔な映像で、信仰や自由、内面の倫理を深く描いた。主な作品に、『田舎司祭の日記』(1951)、『スリ』(1959)、『バルタザールどこへ行く』(1966)など。 ★02 2013年公開。人工知能と恋に落ちる男を描く近未来の物語。感情的対話を生成AIと行う人が増えている現在、きわめて先見的な問いを投げかけている。 ★03 三宅香帆「考察したい若者たち 最終回 ググるからジピるへ」『Voice 2025年6月号』、PHP研究所 ★04 アリストテレス哲学における「善く生きること」を意味する概念。快楽的幸福ではなく、徳の実践や自己実現を通じて人生全体が充実している状態を指す。

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    ドミニク・チェン
    情報学研究者。1981年生まれ。博士(学際情報学)。早稲田大学文学学術院教授(表象・メディア論系コース)。NTT ICC(Inter Communication Center)研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て現職。Ferment Media Researchを主宰し、人と技術と自然存在の関係性を研究している。著書に『未来をつくる言葉』(新潮社)、『電脳のレリギオ』(NTT出版)、『ウェルビーイングのつくりかた』(共著、BNN)など多数。
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    田中みゆきたなか・みゆき
    キュレーター・プロデューサー。「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに、カテゴリーにとらわれないプロジェクトを企画。表現の見方や捉え方を障害当事者含む鑑賞者とともに再考する。2022年7月から12月までACCのフェローシップを経てニューヨーク大学障害学センター客員研究員。2025大阪・関西万博 日本館基本構想クリエイター。主な仕事に、「ルール?展」(2021年、21_21 DESIGN SIGHT)、「語りの複数性」(2021、東京都公園通りギャラリー)、「オーディオゲームセンター+CCBT」(2024、シビック・クリエイティブ・ベース東京)など。主な書籍に、『誰のためのアクセシビリティ?』(リトルモア)など。
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    山本貴光やまもと・たかみつ
    文筆家、ゲーム作家。1971年生まれ。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院・未来社会創成研究院教授。コーエー(現コーエーテクモゲームス)にてゲーム制作に携わり、在職中から執筆活動を開始。1997年より吉川浩満と「哲学の劇場」を主宰。著書に、『文学のエコロジー』(講談社)『記憶のデザイン』(筑摩書房)、『心脳問題』(吉川浩満と共著、朝日出版社)など多数。

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