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DISTANCE.media編集会議2026 ドミニク・チェン × 田中みゆき × 山本貴光 #2
スマホが加速する「エイブリズム」

- 場所: LIFORK原宿(WITH HARAJUKU3階)
メディアのこれからのあり方について考える「弱いメディアラボ」。ますます便利になるスマホ、と同時に、スマホ依存へのいら立ちを抱えている人が増えているように感じる昨今。編集委員であるドミニク・チェンさん、山本貴光さん、田中みゆきさんが集まり、SNSやスマホ、生成AIといった身近なテクノロジーとの適切な距離(ディスタンス)のとり方について話し合いました。第2回は、目的の距離を最短にしようとするスマホの設計に潜む、「エイブリズム(健常者優先主義)」について田中さんが問題提起します。
写真:高橋宗正
ライティング:宮崎慎也
編集:山田兼太郎
協力:LIFORK原宿(NTT都市開発)
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Contents
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正解/不正解という二元論
ドミニク・チェン 「スロー・ルッキング」がいいなと思うのは、「正解/不正解」から解放されるところだと思うんです。僕が大学でやっている「バーチャルキュレーション」という授業では、実在する作家作品をリサーチして自分だけの展覧会を勝手に企画構想するということをやっています。最初のうちはみんな「どう解釈するのが正解なのかわからない」と戸惑うんですが、その正解に囚われることを、スロー・ルッキングでは解体することができます。ただ目の前に黄色が見えるとか、丸があるとか言い合って、それが否定されないという経験をして、お互いに言葉を受けとめ合う時間を過ごします。それだけでも、みんなすごくほっとするようです。
山本貴光 絵画の前に立ったとき、自分の感覚に何が起きるかをじっと楽しむということが大事ですね。雑誌の『美術手帖』で、美術家の岡﨑乾二郎さんにインタビューしたんですが[★01]★01、その際にどうやって批評について学校で教えているかを聞いてみたんです。
岡崎さんが教えてくれたのは、まず何でもいいから絵を1枚、学生と一緒に見る。まず見て、どこか変だと感じるところを自分なりに挙げてみてもらう。たとえばマティスのダンスの絵があったとして、見ていくと、右側にいる人物の足の曲がり方がどう見ても変に思う。そこで岡崎さんは次に「だとしたら、作家というのは必ず意図を持って描いているので、なぜそうしたのかという理屈を自分で考えてみなさい」と言うそうです。そして、もしその理屈が思い浮かんだなら、その理屈でマティスの他の絵を説明できるか試してみる。そんなふうにして、自分が感じた違和を手がかりにして批評へと導入してゆくというわけです。これも正解探しではないですよね。

- 山本貴光さん
ドミニク SNS依存でもゲーム依存でも、この正解/不正解の二元論に陥っていると思います。たとえばゲームだと、「勝ち負け」が正解/不正解としてはっきりしてますよね。ぼくも一時期はゲームにやや依存的にハマったことがあるんですが、戦争ゲームなどでは相手を倒す、相手チームに勝つことが目的になります。
勝つと快感で、負けると不快になる。そうするといつしか相手を出し抜くことばかり考えてしまう。そのモードになるともはや同じチームの人たちも仲間ではなく自分を助けてくれる便利なやつみたいな気持ちになっていく。他者をあくまで自分の快感充足のための道具として見始める。そういう心理が自分の中にも働くっていうのが、思い返すとすごく怖く感じます。
これがSNS上の政治的なやり取りでも起きているんだと思います。自分の思想をまず曲げないわけですよね。自分の陣営にポイントが入る情報をとにかく拡散し、自陣営にいたやつが何か違うこと言うと、あいつはもうこっちサイドじゃないと決めつける。
南アフリカ出身のトレバー・ノア[★02]★02というコメディアンがいるんですが、彼がジョン・スチュワート[★03]★03っていうユダヤ系のコメディアンと対談してて、こういう話をしてたんです。南アフリカだと自分が支持している政党についてみんな不満や愚痴を言いまくる。でも最近アメリカに住んでいて、自分の支持してる政党の事を悪口を言った瞬間、周りからハブられる。それってもう政治でも何でもなくて宗教的な現象なんじゃないかと。まさにこういうことがSNS上で助長されていると思うんです。

- ドミニク・チェンさん
約束事が積み上がらない対話
山本 心理学の実験の話を思い出しますね。集められた被験者たちにランダムに色の違う2種類の赤と青の帽子を配ってゲームか何かをさせるんですが、そうせよと言われてなくても、なぜか同じ帽子の色の人と仲間意識みたいなものが生まれるそうです。人間は勝手に仲間か敵かを線引きをして、競争原理みたいなのが働いてしまうのかもしれません。
オンラインゲームの作り手は、そうした競争の要素を頑張ってつくっちゃうわけです。わかりやすいのはランキングシステムですよね。あれを入れた途端にプレイヤーは勝手に頑張るようになる。SNSの無限スクロールと同じくらい悪魔の仕組みと言ってよいかもしれない。
哲学者の三木那由他さんが『会話を哲学する』[★04]★04の中で言っていますが、対話というのは、話し合う人同士が一種の約束を積み重ねていく営みと見ることができる。Aさん何か言ったら、Bさんはそれを認めたうえで次の話をする。あるいは認めない場合は別のことを言う。Aさんがそれを認めたら、それを前提に次の話をする。こうやって約束事が積み重なっていくのが対話ですよね。そうしていく中で、だんだん信頼関係ができたり、話が合わないと分かったりしていく。
お互いがテーブルに出した会話のカードみたいなのが積み上がっていって、そこにある種の秩序とかルールができて、それを共有しているから議論ができる。三木さんはこの会話を「コミュニケーションとマニピュレーション」と分けていて、前提が積み上がっていく対話のことを「コミュニケーション」と呼び、他方で相手の心理や行動に働きかけようとすることを「マニピュレーション」と呼んでいます。SNSではこの約束事の積み重ねが全然できず、マニピュレーションだけが働いているのかもしれません。
田中みゆき なるほど。さらに言うと報酬系の回路をどんどんシンプルにしていくのがSNSという感じがします。ゲームで勝つことで快感を得るようなことがSNSでも起きていて、会話のマニピュレーションで相手を操作することで快感を得てしまうのかもしれません。
ドミニク そうですね。Xのような短文で短期的なコミュニケーションでは、格闘ゲームのマッチングのような勝ち負けだけになっていますよね。1スレッドが対戦セッションみたいです。今回は負けたから、次は絶対勝つ!みたいに短期的で短絡的になっている気がしますね。
山本 だとすると、議論に勝つためには、キャラを変えてもいいわけなんですよね。思想的な一貫性はなく、どうすれば相手に勝てるのかを考えて、キャラ設定や前提をそのつど変えていく。それはとても不毛なコミュニケーションですよね。

- 田中みゆきさん
何も目的なく話せる場をつくる
田中 ゲーム依存やネット依存の治療をやなさっている先生に話を聞いたのですが、依存に対して病院は何ができるかというと、ただ何も目的なく話す時間をつくることだけですと言われていました。依存している人に対しては親も短期的に怒るようになってくる。「やめなさい」「ルールをつくりましょう」とか、家の中が合目的的な会話ばかりになってしまい、子どもは何も目的なく話せる相手がどんどんいなくなっていくそうなんです。
そうして子どもは孤立していき、さらに依存を深めていく。だからこそ、目的なく話す場というのがとても重要だと思います。
ドミニク 大人であれば別のコミュニティを探しに行けるけど、子どもはそれが特に難しいですよね。
山本 さらに合目的的な会話に慣れすぎてしまうと、いざ目的のない会話をしようとなってもなかなかできなくなりますよね。そうしようとしても、親が目的のない会話をマニピュレートしようとしてるみたいに感じてしまう。
ドミニク そう考えると、スロー・ルッキングも合目的的じゃない時間ですよね。ひたすら《Y字路》を見ることに目的はない。その流れる時間を身体で楽しめるようになる。
エイブリズムを加速させるプラットフォーム
山本 その身体性はとても大事ですよね。先ほども述べたように、テック企業は、往々にして自社アプリやサービスのスクリーンタイムを伸ばすことを考えています。その時間がお金に変換されるからです。そんなこともあって、彼らにとっての一番の敵は、今や人間の睡眠になっているようです。さすがに寝ている間だけは誰もスクリーンを見ないから。スマホは無際限に何かを提供するけれど、それを見る人間の身体は有限なので、無限につきあえるわけではありません。
それで思い出すのは、『デューン 砂の惑星』[★05]★05の原作に登場するある老人の言葉です。人工知能みたいなものはどんどん便利になるけど、人間がどこまで自分で考えて、どこからはコンピュータに任せるか、自分でやる部分と自動化して便利な部分の境界線を考えなければならないと。
ドミニク それが『デューン』にすでに書いてあるのが驚きですね。スマホがあることで便利にはなったものの、それが幸せにつながるかという問いを踏まえて、設計し直さないといけないですよね。
田中 私も現代のスマホこそ「エイブリズム(健常者優先主義)」[★06]★06を加速させているなと思っています。たとえば今、発達障害や知的障害を持っている人でギャンブル依存症になっている人が結構多いんです。
それはスマホでいろんなことが簡単にできるからという理由もあります。たとえば、簡単に借金ができたり、ゲームに際限なく課金したりできてしまうから、スマホ一つでギャンブル依存になってしまう。それを依存している人に問題があると言って入院させて、一体何が改善されるんだろうと思ってしまいます、むしろそういうシステムをデザインした側が責任を負うべき話だと思います。
ある程度自分の欲望を制御できる、健常と言われる人を前提に設計し、その構造自体を見抜けない人を自己責任で片付けていいのか。その倫理観の足りなさに憤りを感じます。ほとんどの人は気づいてすらいないうちに、リテラシーのギャップが広がってしまっていると思います。
山本 そういう意味では、ギャンブルに対しては風営法のようなもので射幸心を煽らないように規制がかかっていますが、スマートフォンにおける射幸心や報酬系に関しては緩いですよね。
ドミニク 2010年代だと、グリーのような会社が射幸心を煽るような設計思想でゲームをつくっていて、それは消費者庁が動いて規制しましたよね。いわゆるガチャ規制というものですが、ガラケー時代にはそういう抑制が効いていました。今は誰もがスマホを使う時代になって、そこが野放しになっているのかもしれません。
田中 それを当事者が自ら解決することは難しいので、技術に関わる企業や国が一緒に対処する必要があると思います。
DISTANCE.media編集会議2026
#1 SNS依存とスロー・ルッキング
#2 スマホが加速する「エイブリズム」
#3 生成AIと報われたい願望 (01/30公開予定)
#4 読書と遊びと摩擦のすすめ (02/06公開予定)
★01 「特集 岡﨑乾二郎ーー造形作家の「起こし絵」をつくる」『美術手帖 2025年7月号』、カルチュア・コンビニエンス・クラブ ★02 人種や政治、社会問題を鋭いユーモアで語り、『ザ・デイリー・ショー』の司会として国際的に知られる。 ★03 政治風刺を軸に時事問題を批評し、『ザ・デイリー・ショー』の前司会者として、笑いと批評を結びつける新しいコメディの形を確立した。 ★04 三木那由多『会話を哲学するーーコミュニケーションとマニピュレーション』 光文社新書、2022年 ★05 米国のSF作家フランク・ハーバート(1920–1986)の1965年の作品。砂漠の惑星アラキスを舞台に、資源メランジをめぐる権力闘争と救世主伝説を描いたSF大作。ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞。シリーズは続編・映像化を通じて世界的に影響を与えた。邦訳は『デューン 砂の惑星〔新訳版〕』 (上・下) 、早川書房、2016年。 ★06 障害のない身体や能力を標準・理想とみなし、それ以外を劣ったものとして扱う価値観や社会構造を指す。制度や文化に無自覚に埋め込まれている点が特徴。

- ドミニク・チェン
- 情報学研究者。1981年生まれ。博士(学際情報学)。早稲田大学文学学術院教授(表象・メディア論系コース)。NTT ICC(Inter Communication Center)研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て現職。Ferment Media Researchを主宰し、人と技術と自然存在の関係性を研究している。著書に『未来をつくる言葉』(新潮社)、『電脳のレリギオ』(NTT出版)、『ウェルビーイングのつくりかた』(共著、BNN)など多数。

- 田中みゆきたなか・みゆき
- キュレーター・プロデューサー。「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに、カテゴリーにとらわれないプロジェクトを企画。表現の見方や捉え方を障害当事者含む鑑賞者とともに再考する。2022年7月から12月までACCのフェローシップを経てニューヨーク大学障害学センター客員研究員。2025大阪・関西万博 日本館基本構想クリエイター。主な仕事に、「ルール?展」(2021年、21_21 DESIGN SIGHT)、「語りの複数性」(2021、東京都公園通りギャラリー)、「オーディオゲームセンター+CCBT」(2024、シビック・クリエイティブ・ベース東京)など。主な書籍に、『誰のためのアクセシビリティ?』(リトルモア)など。

- 山本貴光やまもと・たかみつ
- 文筆家、ゲーム作家。1971年生まれ。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院・未来社会創成研究院教授。コーエー(現コーエーテクモゲームス)にてゲーム制作に携わり、在職中から執筆活動を開始。1997年より吉川浩満と「哲学の劇場」を主宰。著書に、『文学のエコロジー』(講談社)『記憶のデザイン』(筑摩書房)、『心脳問題』(吉川浩満と共著、朝日出版社)など多数。

