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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?
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海です。山と海に囲まれた小さなまちで育った私は、メディアで見聞きする都市や人は本当に実在するのか、どこか不思議な気持ちで海を見つめて、その先に続いているかもしれない世界を想像していました。今でも海を見ると、今ここに留まらない可能性に想像を巡らせられる気がします。そして海は見るだけでなく身体的な場です。ゴツゴツとした岩場やいつの間にか潮が満ちてくる浜辺を歩いていると、人力では到底及ばない自然の造形を肌で感じて圧倒されます。潮だまりや遠浅の砂浜でそっと手を入れて、宝探しのように色々な生き物に出会った経験は、見えなくても沢山の豊かな生命と共に人はあるという確かな実感として自分の中に残っています。海は、自分の身体をゆっくりとゆだねていると、いつでも知らない(遠い)景色を見せてくれる不思議な場だと思います。
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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?
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不満というより個人的な課題なのですが、手で画面を動かしながら読むうちに、視線も意識も釘付けになってしまうことや、終わりが決めにくいことです。紙メディアでは、目だけで全体を俯瞰したり部分に注目したりしながら思考を巡らせやすいのですが、ウェブメディアではスクロールと共に出てくる情報に夢中になってしまい、深く考えずに読んでいる気がします。そして紙のような明確な終わりがない時に、無限にあるコンテンツから自分の意思で離れることはとても難しく、自分の弱さを日々痛感します。気持ちよく読み終えられてさらにそこから自分自身で考え出したくなるようなウェブメディアを期待しています。
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橋田朋子 研究者
早稲田大学理工学術院教授。1980年生まれ。よく知っているようで思いがけないモノ・コトを作り、身近な対象の再発見や新たな価値化を目論む研究・作品制作に従事。