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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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高校時代の単身留学は、寮生活を舞台に多国籍の学生たちと触れ合い、言葉の壁を越えて自らの価値観を再編する、かけがえのない機会となった。留学とは、単に地理的な距離を超えるだけでなく、フィルターバブルを破壊し、多様な価値観への触れ合いを促進する存在であり、時に痛みを伴いながらも遠い地平へと導いてくれる。留学を経て、経済状況や学びの差による得手不得手が、実空間におけるある種の暴力性として現れ、価値観の違いが際立つことを痛感した。

遠くを見るためには、情報の提示方法が鍵を握り、タイミングや手法によって受け手の反応が左右される。実空間での多様な価値観に触れる体験を、情報空間でも再現することが求められているのではないだろうか。現代において、AIが文章を解釈し生成できるようになり、バイアスやフィルターバブルを回避しながら独自の視点を持ち、人々を遠くへと導く方法が模索されている。

GPTのような高度なAI技術は、その解決策として活用できるだろう。例えば、論文への査読コメントのように、批判的かつ建設的なフィードバックをAIが提供することが可能だ。これにより、読者が関心を持った記事に対し、書かれていない視点を提示し、記事に広い視野を与え、読者に新たな洞察をもたらすことができる。良質な記事を提供するメディアが、これらの可能性を追求し、情報空間で多様な価値観や立場の違いを再現し、読者を遠くへと誘う力を持つと考えられる。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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現在のウェブメディアの状況において、ビュー数追求が第一となり、フィルターバブルを加速させるアルゴリズムが横行していることは否めない。目立つタイトルや炎上を狙った記事が増え、インフルエンサーによる暴露が力を持ちつつある。その結果、社会的な分断が進行し、良識ある人々がウェブメディアから距離を置く傾向が強まっている。これらの問題を解決するために、ウェブメディアの在り方を変革する動きや活動への参画を検討されていることは、素晴らしい取り組みだと思います。

岡瑞起 人工生命研究者

筑波大学准教授、株式会社ブランクスペース技術顧問。1980年生まれ。人工生命技術、機械学習、深層学習を使ったデータ分析・活用の研究と、その社会実装に力を入れている。写真: ©水野聖二