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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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2020年の春先、コロナパンデミックが世界を覆い尽くす、まさにその直前、奇跡的なかたちで、長年、夢みていたことが実現した。ガラパゴスへの旅である。

ガラパゴスは、赤道直下、南米エクアドル沖の洋上、約1000キロに位置する絶海の孤島。大陸と隔絶されたこの群島は、独自の発展を遂げた。そして、ここにしか棲息しない巨大なガラパゴスゾウガメやウミイグアナのような固有の生態系を生み出した。日本では「ガラパゴス化」というとよくない印象の言葉になる。時代の趨勢から取り残された袋小路、といった意味だ。これはほんとうのガラパゴスに対して、たいへん失礼な言い方である。なぜなら、実際のガラパゴス諸島はこれとは真逆にあって、ガラパゴスは、生命進化の最前線にあり、まさに今、進行中の進化実験の現場だといっていい場所なのだからだ。それには理由がある。ガラパゴス諸島が海底火山の活動で誕生したのは、地球史的に見るとごく最近のこと。ほんの数百万年前に突如出現した。

急にできた新天地に、さまざまな方法で、偶然たどり着いた少数の生物だけが、適応的に棲み着いた。それがガラパゴスだ。その進化は現在進行形である。人間の存在(ロゴス的なもの)とは無関係に、生命はそれぞれのまったき生をいきている。これがほんとうの自然(ピュシス)なのだ。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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メディア(単数形 medium, 複数形 media )とは、生物学用語では、細胞をシャーレの中で生育するとき、細胞に酸素や栄養、あるいは成長因子などを与える温かい培養液のことをいいます。つまり生命を支える媒体という意味です。一方、現在のネット上のウエブメディアは、私たちを支えるというよりは、分断を促進し、極端な言説(陰謀論など)が横行、エコーチェンバー化しています。

これからのウエブメディアは、このような方向に流れることを避け、自由に、たくさんの人々が交流できる場所にする必要があると思います。そのためのまず第一段階は、日本語環境特有の閉鎖性を打破する方策です。たとえば日本語で入力しても共通語(たとえば英語)化される相互メディアです。それから各人の言論の自由を守りつつ、発言者の責任を明確にする仕組みが必要ではないかと思います。

福岡伸一 生物学者

青山学院大学教授。ロックフェラー大学客員教授。1959年生まれ。“生命とはなにか”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表、またフェルメールの熱心なファンとしても知られている。