q

あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

a

もともと生物学専攻で、人間を特別視することに対する疑念と生命の多様性という概念は思考の深部に浸透しているようです。1980年代にメディアアートに出会ったとき、それが表現の多様性と関係性や人工生命について考える基盤になりました。

地理的・文化的に遠いところへ私を連れて行ったのはメディアアートです。2日かけて到着したブラジルの極端な貧富の差と強烈な作品。ベルリンの壁崩壊から間もないスロヴェニアやポーランドで感じた表現の自由への熱い眼差しと忍耐強さ。イスタンブールの屋外イベントでたまたま隣り合った若い建築家と地面に座り込んで語り合ったそれぞれの文化の違いと共通性、社会の抱える問題。メディアアートという場は、自分と違うさまざまな視点や背景が存在することを可視化し、イマジネーションを鍛え、世界を広げ、思考をさらに遠くへと誘ってくれる力を持っています。

最近やっている視覚文化についてのメディア考古学的な研究もその延長上で、江戸期の幻燈や明治期のパノラマなど、当時の先端メディア技術と表現と社会の関係を紐解き、人々の意識を想像するプロセスは、時間軸を遡る遠くへの旅です。

q

既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

a

ウェブメディアの信頼性という点で情報の正確さとバイアスのかかっていない見解が重要でしょう。一方で即時性と場のオープンネスにも期待したい。しかしこれらは矛盾する場合があります。どのようなウェブメディアを設計してどのように維持すれば信頼が置けてかつ開かれた場が可能になるのか、今後に期待したいと思います。

草原真知子 映像文化史研究者

早稲田大学文化構想学部教授。1948年生まれ。1980年代前半からキュレーターとして展示、講演、執筆、教育を通じてメディアアートの発展と国際交流に尽力。