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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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たぶん、実家の庭です。 私は小説を書いたり、都市や建築について考えたりして日々を過ごしているのですが、自分がそんな人間になったことを不思議に思っています。原体験とか長年の夢とか憧れの人とか、そういう明快な理由に導かれて一貫性のある人生を歩んできたという感じが全くしないのです(多くの人がそうなのではないかと思いますが)。
 
小説家になったのは、都市と植物についての妄想を形にしたから。都市と植物について考えたのは、ランドスケープアーキテクトになりたかったから。ランドスケープに出会ったのは、建築を学んでいたから。建築に惹かれたのは、作ることが好きだったから。作ることが好きなのは、子供の頃から拙い絵や詩の経験があったから。絵や詩を経験したのは、目の前に描くべき花や歌うべき虫がいたから。目の前に花や虫がいたのは、祖母が手入れする庭があったから。 ということは、私をフラフラとした長い模索へと誘ったのはその庭だったのではないか......と思うのです。 

幼少期の自分と31歳の自分のように、ふたつのものが遠く隔たっているとき、その間を繋ぐ関連性の説明は恣意的に撚り合わされたストーリーにすぎません。それでも、無数のやり方の中でとりわけ気に入る説明が、ときどき見つかることがある。庭と今の繋がりは私のお気に入りの説明です。あらゆることについて、「隔たりの間を繋ぐ良い説明」を探していくのが、小説を書くことの一側面なのではないかと思います。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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今はウェブの内外問わず膨大なコンテンツが供給されていて、ものを読んだり鑑賞したりする目の“容量”がいつも逼迫しています。しかし、耳にはまだ比較的余裕があるので、人の声や様々な音によって届くコンテンツがもっと増えても良いのにと思います。特にウェブメディアは、たくさんの異なる人々の声が集まる空間の様相が強いのではないでしょうか。

津久井五月 小説家

1992年生まれ。東京大学大学院で建築学を学んだのち、SF作家としてデビュー。都市・建築をはじめとするテクノロジーと人間の関係を主なテーマとして小説を執筆している。