q

あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

a

高校生の頃から人間の社会が普遍的に持つ「家族」という組織について大きな疑問を抱いてきた。動物には親子はあっても家族はない。家族の紐帯は一生切れることがなく、また他の家族と繋がり合って共同体をつくる。この融通無碍でいて強固な性質こそが人間の本質なのに、それがいったいどんな背景で進化してきたのかわからない。その問いが私を遠くアフリカまで誘い、人間の家族に似たゴリラの社会をのぞこうとした大きな動機になっている。アフリカ奥地の熱帯雨林でいくつかのゴリラの群れに出会い、その中で暮らした経験から、ゴリラの社会はメスがオスを選んで群れ間を渡り歩き、子どもを保護することがオスの重要な働きであることがわかった。そこから、人間の家族の原型を推測できるようになった。人間の家族は、女性がまず育児能力に優れている男性を選び、生まれた子どもが頼る父親を選んで成立する。自分で子どもを産めない男性にとって、女性とその子どもから選ばれることが父親の条件なのである。つまり、人間の家族における父親とは女性と子どもの選択によって生じる「文化的存在」とも言える。おそらく、人間の祖先は遠い昔にアフリカの熱帯雨林から草原へと進出する過程で、集団を大きくする必要からその原型ができたのだろう。しかし、やがて男性どうしの結束が高まり、父親の権力が強化されるようになって女性の自由な動きが制限されるようになった。現代は再びその抑制が解かれる時代を迎えている。

q

既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

a

回答なし

山極壽一 霊長類学者

総合地球環境学研究所所長、京都大学前総長。1952年生まれ。ゴリラの研究の世界的権威であり、ゴリラやサルの目をつうじて、人間社会や家族のあり方について、研究・執筆している。