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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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3月になると産卵のために富山ではホタルイカが磯近くまでやってくる。新月が狙いどきで闇夜の水中に灯りを灯すとホタルイカがよってきてそれを網で掬い上げるのだ。それを楽しみに3月の富山の浜には全国から人が押し寄せるのだが、みんながみんなライトを垂らすのでホタルイカが分散してしまっていけない。とはいえ自分のところのライトを消すということはつまりホタルイカを放棄した様なものでせっかく遠くから来ているのにそんなことできるわけがない。

そんな時に堤防の端から乱暴な声色であーだこーだという声が聞こえる。止まってはまた近づき、嫌だなと思いながらもいよいよ側に来てしまった。これが釣り場の仕切りおじさんである。おじさんは毎年その堤防でマナーのわからない余所者たちにホタルイカの取り方を教えるのであった。

おじさんは地元の出身で、本業は土建屋。しかし、副業でホタルイカを取ったり山でキノコ狩りをして東京のレストランなんかに卸している、なんというか、やり手のおじさんなのだ。まだ20歳そこそこ、海にいるホタルイカを食べられる事に驚き悦ぶような都会っ子だった私は道のない山で獣を避ける術や、GPSを使って毎年きのこがどこに自生するのか、そして山菜や獣を取るときの理なんかを教えてもらった。思えばそれがあったからこそ今の自分の道に進むことができたのだと最近思う様になってきた。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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ウェブメディアにおいても基本自分の興味の範疇の中で収まり、本屋の様に出会う体験がないのでどんどん偏りがちになってしまう。

渡辺志桜里 アーティスト

1984年生まれ。自然の循環・生態系をモチーフにした作品で知られ、全体性を主軸に、生物、無生物を問わず、その個に携わる身体の境界といったものに焦点を当てて制作している。