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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?
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この春、長く酷い悪阻のせいで、身動きが全く取れずに、進められない仕事の山と、進まない時計の針に苛立っていた。GPS的には一切動きがない時間だったが、このことは今までの人生の中で、最も遠くに私を運んでいった。
吐き気まみれのベッドの上で行うことは、なぜ人に悪阻があるのかを調べること。その答えを探すために、気がつくと歴史を延々と辿っていた。いくつもの戦争と政治を超えて、文明の誕生まで戻っても答えはない。哺乳類の誕生について戻って調べる。私たちの祖先は、小さなネズミで、恐竜がいた時代は脇役だったこと。そこから猿人までの長い道のり、多様な人類の祖先。二足歩行のサピエンスの誕生。歴史の中を行ったり来たりする中で、少しづつ答えは見えてきた。
私の体を4ヶ月に渡ってコントロールしてきた何十億年と積み重ねられたDNAたち、それに強く対抗する37年で獲得したミームたち。自分の中に積み重ねてきた生命のイメージと身体をぶつかって戦わせるような、または深く交流させるような厳しい時間。決して心地良くはなかった。しかし、今まで感じたことがない圧倒的な遠くの世界と一本の線で繋がれた体験になった。
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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?
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現在のウェブメディアは、テクノロジーの発達により、テキストだけでなく、動画や音声、どんな形式のデータも伝えられる場所になった。しかし、その一方で、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などの過去のメディアの雰囲気を踏襲する息苦しさも感じる。
これからのウェブメディアは20世紀のメディアの文脈の延長とは全く違った空間も生まれるのではないだろうか。間合い、音の響き、気配、震え。人間が本来持っている繊細で多様な言語が、現実の世界以上に鋭敏に反映されるような場所に変化することを期待したい。
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清水淳子 視覚言語研究者・インタラクションデザイナー
多摩美術大学情報デザイン学科専任講師。1986生まれ。紙とペンで人々の対話や議論を可視化する「グラフィックレコーディング」を研究・実践。現在は、多様な人々が集まる場で既存の境界線を再定義できる状態 “Reborder”を研究中。