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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?
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遠くへ行くきっかけになったのは、大学院で人類学を学び始めたことである。人類学は、自らと異なる他者と出会うことによって自らを相対化するという営為だが、当時の人類学は、それを遠い「未開の地」に行ってやるというのが普通のスタイルだった。そこで私は、修士課程ではトカラ列島で、博士課程に入ってからはザイール(現コンゴ民主共和国)でフィールドワークをおこなった。
しかしグローバル化、通信手段の発達によって、やがて「遠く」は「遠く」ではなくなってきた。Google Mapを見れば地球上のすべての地域を俯瞰できるし、衛星電話をつなげばコンゴの熱帯林にいても大学の事務連絡さえどんどん入ってくる。そういった状況のもとで、人類学は対象をさまざまに変化させてきた。私自身がやったのは、「他者性」を極限まで押し進めた対象としての、宇宙人の研究である。もちろん実際に宇宙人と出会うことはできないが、表象としての宇宙人なら、子供の頃から読みふけってきたSFにさまざまな形で登場してくる。それを研究するのも、他者を考えるという意味での人類学の一つの形になりうるだろう。そのように考えて、私は『見知らぬものと出会う──ファースト・コンタクトの相互行為論』という本を執筆した。
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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?
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ネットを通じてさまざまな形で「繋がること」ができるようになった状況のもとで、われわれは「切ること」「無視すること」「ローカルに考えること」の技術もまた知っていく必要があると考える。ただしそれは、いわゆる「エコーチェンバー現象」的な分断ではなく、相手のことをよく知った上での「切ること」である。私の見てきたアフリカの社会には、そのためのさまざまなヒントがあると思う。
一方、ウェブメディアでは、ホームページやブログといった従来の紙メディアをウェブ化したものだけでなく、ツイッター、ニコニコ動画、LINE、YouTubeといった新しい様式が現れてきている。これらは、「近代」によって奇妙に狭められた人間のコミュニケーション様式の可能性を回復させるものだと考えている。もっと無茶苦茶な、面白いやり方が登場してきてほしいものである。
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木村大治 人類学者
京都大学名誉教授。1960年生まれ。アフリカ人類学を専門としながら、宇宙人類学のフィールドも開拓している。