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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?
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自分をこれまで「遠く」へ誘ったものは、自分の祖父にあたる人物だろう、と思います。その人の墓は、自分が生まれ育った東京からは地球の反対側、米国のオハイオ州にあります。
祖父であれば、通常、「近い」存在だと考えられているかもしれません。しかし、私にとって、もしくは私の家族にとって、この近い存在のその「近さ」が、そうであるからこそ、もっとも「遠く」に感じられるものでした。朝鮮半島が分断される戦争が起こり、そのために米国の田舎で徴兵された若者は、畜産業に従事するイタリア系移民の出自で、親との不仲から家出をし、沖縄へとやってきて、おばあちゃんと出会いました。
「遠い」はずの国、「遠い」はずの人間の現実が、自分自身の最も「近い」領域を構築している。そしてこの身に刻み込まれた「近さ」こそが永遠に出会うことのできない「遠さ」になっている。でも、その決して近づくことのできない距離こそが、自分をそこに誘い続けているのだろうとも思います。「近い」人間の「遠さ」に気づき、「遠い」人間の「近さ」に出会えるように。
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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?
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これからのウェブメディアに期待することは、できれば閲覧数を最優先にするのでない形でテーマを設定し記事を公開していただければ、という点です。
閲覧数が最優先されてしまえば、社会的に重要なテーマではなく、「炎上」や「ウケ」を狙った差別的な内容の記事やマジョリティに受け入れられやすい記事ばかりがネット空間に広がってしまうことにつながりかねません。
逆に、社会的に重要なテーマを設定し発信することで、それらの問題にかんする社会的な認知を広げ、それがゆくゆくは拡散にもつながっていくような形になれれば、昨今のウェブメディアをめぐる状況へのなにかしらのインパクトや変化につながるのではと思います。
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下地ローレンス吉孝 社会学者
ハワイ大学客員研究員。1987年生まれ。戦後日本社会における「混血」「ハーフ」「ダブル」「ミックス」などを研究テーマとするのと並行して、「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営。