q

あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

a

20年ほど前のことだろうか、初秋の一日、雑誌の取材で広島県宮島を訪れていた。武満徹〈November Steps〉を厳島神社の能舞台で奉納公演するというコンサートの前日だ。会場の下見のために、閉門した後の厳島神社に立ち入ることを許された。既に日は暮れ、人の気配の絶えた回廊を灯籠が照らしている。その足下には、ひたひたと潮が満ちつつあった。延々続く回廊の前を見ても、後ろを振り返っても、私のほかに誰一人歩く者はいない。この時感じていた不思議な感覚について、どう書けば伝わるだろう。

洋上に浮かぶ厳島神社の社殿は、本社社殿、客神社社殿、附属社殿で構成され、それらを屋根のある回廊で繋げている。造営は仁安3年(1168)頃、平清盛によってなされたが、2度の火災で全ての建物が焼失。仁治2年(1241)に再建するものの、この仁治度社殿も現存するのは本社拝殿と祓殿だけで、他は15〜16世紀、あるいは江戸時代以降に作り直された。それでも社殿の基本的な配置や構成は、仁治度社殿が踏襲されている。約700年にわたってほぼ同一の場所、形状を保ってきた建物の一角にいると、自分がいったいいつの時代の回廊を歩いているのか、いまどこにいるのか、判然としなくなる。

遠くからはゲネプロ中の〈November Steps〉がかすかに聞こえて来る。こうしている自分が本当は、武満徹の音楽に耳を傾ける鎌倉時代の人間だったらどうしようか。惑乱でも恐怖でもない、不思議にぼんやりと遠い困惑に身を浸していた。

q

既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

a

回答なし

橋本麻里 ライター・エディター

1972年生まれ。日本美術を中心に、新聞、雑誌など、幅広い媒体に寄稿している。また、甘橘山美術館開館準備室室長、金沢工業大学客員教授を務める。