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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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美術家として長く作品制作を続けてきて、ずいぶん遠くにきたものだ、と思うことがあります。生まれ育った場所から距離的に離れたところにきた、という意味ではありません。アート作品の制作は、登山、もしくは旅のようなものだと感じます。どこへ行くという目的地が決まっているわけではなく、興味のあることを進めて行った先にまた次の山を見つけて登り続ける。そこには予想だにしなかった風景が広がっている、という具合にです。

例えば、はじめはビーバーが齧った木が彫刻作品のように見えることに感嘆し、ビーバーに木を齧ってもらい集めていきました。そうして集めてみると、齧られた木に「螺旋」という規則性を見つけ、それは樹木の構造におそらくよるもので、枝ぶりの規則(枝序といいます)がフィボナッチ螺旋になっていることを知る……という具合にです。さらに、それらの木にはカミキリムシの食べた痕がトンネルのように内部に広がっていることを発見し、想像しなかった世界へと広がっていきます。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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数々のウェブメディアに取材いただく機会があり、時には寄稿をするなど、少なからぬ時間と労力を注いできました。そこには、紙面と違い、写真やテキストの制限があまりないこと、映像の埋め込み、Webサイトのリンク、VR空間への展開など、大きな可能性を感じています。流通が容易で多くの人の目に触れられることも利点だと思います(一方、話題にならないと届かない、という面もありますが)。

良い記事ができ、多くの人から反響をいただく嬉しさがある一方で、ウェブメディアが突然消失してしまう悲しみも多く経験してきました。運営上のコストや仕様変更など、様々な事情があることは理解できますが、新しいウェブメディアを立ち上げるにあたっては、その保存・アーカイブについても、是非真剣に考えてもらえると嬉しく思います。ウェブサイトの保存が難しければ、編集し直してアナログな方法で残していくことも良いのではないでしょうか。

AKI INOMATA アーティスト

1983年生まれ。人間とは異なる視点やふるまいを持つ動物たちとの共作を通して、人と生き物の関係性を再考している。