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KOEL×RE:PUBLICと考える、 少子高齢社会とこれからのデザインの使いかた

『ビジョンデザイン』刊行記念イベントレポート

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未来は「予測」するものではなく、対話を通じて「共に創る」ものへ──NTTドコモビジネスのデザイン組織・KOEL Design Studioは、ビジョンデザインの実践として3年間にわたり「少子高齢社会」をテーマに全国4地域でフィールドワークを行い、地域の声から未来を共に描く手法を探ってきた。その成果をまとめた書籍『ビジョンデザイン 〈私たち〉の未来を考える、これからのデザインの使いかた』(NTT出版)の刊行を記念し、青山ブックセンター本店にて著者の田中友美子さん(KOEL Design Studio)、共催したRE:PUBLIC共同代表の田村大さん、市川文子さんによるトークイベントを開催、未来を共に創り出すこれからのデザインの使いかたについて語り合った。

企画・制作:KOEL Design Studio

(本記事はKOEL Design Studio 公式note からの転載記事となります)

Contents

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    KOEL Design Studio (Head of Experience Design) 田中友美子さん

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    RE:PUBLIC 共同代表 市川 文子さん・田村 大さん

    ビジョンデザインとは「どんな未来にしていきたいのか」を考えること

    田中 KOELでは公共事業と企業が行うビジネスの間にある領域に「セミパブリック」という名前を付けて、社会課題の解決に挑んでいます。そのKOELのデザインの枠組みの一つが、今回の書籍のテーマである「ビジョンデザイン」です。

    KOELのビジョンデザインの定義は「プロダクトやサービスデザインの開発を超えた広い視野で、今、起こっている・起こり始めている社会の変化に目を向け、10年後、20年後に社会がどうなっていくのか、そのなかで私たちはどんな『暮らし』をしたいのか、その実現のために今どんなことをしていくとよいのかを考える活動」です。

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    ”ビジョン” という言葉からつい「世の中の変化を予言する」ことを想像する方も多いかもしれませんが、社会の変化を受け止める中で、みなさんそれぞれが「どんな未来にしていきたいのかを考えていく」のがビジョンデザインなんです。

    例えば、Uberはタクシーが高い・捕まらないという利用者の問題を解決した優れたサービスである一方、街という文脈でみると路上のドライバーが増えることで渋滞の原因の多くを作ってしまったという実情があります。タクシーの利用者だけが恩恵を受けられればそれでいいの?これからは、利用者のことだけでなく、もっと大きな文脈についても考慮する必要があるのではないか?ということです。

    これまでのデザインは市場の拡大と生活の質の向上を目指してきましたが、これからは資源の有限性を踏まえ、持続可能な未来・長期的な視点から従来の価値観を見直すことが求められています。それがデザインがビジョンを扱う理由だと思っています。

    書籍『ビジョンデザイン』では、KOELが2021年から2023年までRE:PUBLICさんと共催して行った3つのプロジェクトをもとにしています。

    ビジョンデザインの1年目「みらいのしごと after 50」では、山口県山口市阿東地区という 高齢化率58.9%(2022年時点)の町で、創造的なお仕事をされている方にお話を伺いました。不要になった書籍を集めてコミュニティスペースにしている私営図書館「阿東文庫」や、阿東最後のスーパーが潰れてしまったあとでそこを買い取って買い物とコミュニティの拠点にした「ほほえみの郷 トイトイ」などを訪問し、新たな「しごと」の現場を見に行ったのですが、実際には人口減少と高齢化が進む社会でどんなことが起こるのか、を強く考えさせられるようなフィールドワークとなりました。

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    2年目に行なった「豊かな町のはじめかた」では、持続可能性のある地域創生について考えました。まず長崎県雲仙市の小浜町という、移住の方を中心に地域の資源を活かした地域創生が行われている地域で、移住者として町と新しい関わり方をされている方に貴重な話を伺いました。ただ「小浜は特別いい条件が揃った場所なのでは?」という気持ちもあって、もう1箇所、秋田県南秋田郡五城目町にも伺いました。ここは高齢化率も47.3%(2020年時点)で、田園地帯が広がっている地域ですが、室町時代から続いている朝市があったり、「ドチャベン(土着ベンチャー)」という地域発祥ベンチャーを支援する動きがある、面白い地域でした。

    3年目「多彩な文化のむすびかた」は多文化共生がテーマでした。兵庫県神戸市長田区という、歴史的にも移民の方が多くいらっしゃるところで、全国平均2.1%の外国人比率に対し、その3倍以上に当たる約7%が外国人という、 多文化共生がとても進んでいる地域です。長田区は、阪神淡路大震災で大きな被害を受けたところですが、町が復興した今では、異なる時期に様々な国から日本に移住してきた方々がこの地に定住し、もとより住んでいた日本人との間で生活の中で関わりを持ちながら、深い関係性を築いています。

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    写真は私たちの行きつけのお店だった中華料理屋なんですけど、お店をやっているお母さんも中国の方から来られた方なんです。

    市川 このお母さん、ほがらかな方に見えますけど怖いんですよ。

    田村 餃子を、他のお客さんとタイミングを合わせて注文しないと怒られちゃうんです(笑)。「なんであの時一緒に頼まないんだ!」って。

    田中 お客さんみんなでお店のオペレーションを支えながら注文するというところが、長田らしい良さでしたね。

    先端地域を歩いて見えたこと

    —— まず最初のテーマ「フィールドワークを通して特に印象的だった気づき社会の変化」からお聞きしていきたいと思います。

    市川 すごい面白いのは、阿東で行われているのは「副業」じゃなくて「複業」なんです。 主か副か、じゃなくて、いっぱい。どれがメインかもわからない状態でみなさんやってるんですよ。お話を聞いた方も、朝に奥さまと一緒に餅ついて、その後に自転車のツアーをやってきたんですって。1日に3つか4つくらいの複業をまたいでいる。

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    つまり人口が少ないと、1人の人が1つの仕事をしていればいい、とはならない。その時に「まんじゅう屋も自転車ツアーも私の仕事。全部の仕事をやります」 と。東京に住んで会社にお勤めするような世界観とは全然違うかもしれないけれど、阿東で主体的な選択をしているのをまざまざと見せつけられて「楽しそう!どうする?」って思ってしまいました。

    田中 阿東では与えられる仕事はほとんどなくて、自分のモチベーションから始めている仕事をされている方が多かったですね。東京でみんながやっている仕事とは全然違った。少し違ったとか、真逆だったとかではなくて「全然違った」のがすごい衝撃で。

    市川 「課題を解かなきゃ」「やらなきゃ」「頑張らなきゃ」じゃなくて、勝手に楽しくやっているうちに、3つ、4つ仕事を抱えているんです。

    田中 小浜もいいところでしたよね。

    田村 小浜はデザインのつながりも多かったです。小浜出身のプロダクトデザイナーの城谷耕生さんが、イタリアで活躍されてから小浜に戻ってきてお店とスタジオ、教育の場も兼ねた「刈水庵」を作って活動されていたんですが、5年前に亡くなられたあと、城谷さんに育てられた方が今、活躍してらっしゃいます。

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    写真の「景色デザイン室」は九州大学芸術工学部の出身の古庄悠泰さんのデザインスタジオ兼喫茶店でした。

    田中 「景色デザイン室」は1階で喫茶店を土日だけやっているんですけど、丸見えなところがすごく良くて。古庄さんがいると、いろんな人が入ってきて、話しかけてくる。コミュニティのハブになる建物でしたね。

    市川 あとは温泉。小浜は温泉や観光で栄えていて、ある程度密集している、ウォーカブルな街なんですよね。目抜通りは自動車も通っていて歩いていれば知り合いに顔を合わせることも多い。でも物思いに耽ろうと思えば細く曲がった裏道もある。通りからも豊かな人間関係が見える場所ですごく良かったです。

    田中 「歩ける距離感」や「偶然的に顔を合わすことの大事さ」が印象に残っています。世代とか属性とは関係なく、みんながある程度つながっているコミュニティの強さは、この規模だからこそなんだろうなと。

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    田村 福岡からわざわざ買いに行く人がいるぐらい有名なオーガニック野菜の直売所があるんですが、そこで買ってきたものだけでみんなが飲み会をやるんです。105度の温泉の源泉があって、買った野菜を、「そこから出てくる蒸気で蒸す」っていう、ただそれだけの食べ方をするんですよね。

    市川 本の中でも紹介されていますが、移り住んだ当初年収が100万円くらいしかなかったけれど、週に2回はもらったお野菜を蒸して食べて、ワイン飲んで。お金はないけど、くらしは豊かだったと教えてくれました。

    ——ぜひ長田のお話もいただけますか。

    市川 長田は、うちの社員が2名吸い込まれていきました。東京と福岡のメンバーの2名がこのフィールドワークをきっかけに「神戸に移住したい!」と。今も神戸に住んでます。

    田村 1人は長田の工場を借りて住んでいます。1階は廃工場で、2階に部屋があって、そこで今暮らしている。

    市川 私たちも、地域に住んでる人も、高齢化によってどういう産業がどんな状態になっているか全然見えないんです。

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    これは「株式会社YUUTO」のケミカルシューズを作っている工場なんですけど、元々ベトナム国籍だった方が工場を運営してらっしゃる。どこを見回してもいないんですよ、日本人のなり手が。漁業、自動車整備、靴メーカーどの産業もそれぞれに “自分たちの問題” と思ってる。人がいない、外国の人がいないとなりたたないという話が、神戸の中では全部集まっていて、次のなり手をうまく見つけてる。

    でも「長田では成立してるけど、他の地域ではどうするんだろう?」とも思います。その仕組みをいっぺんに見ることができたのが長田でしたね。

    田村 株式会社YUUTOの高山さんはベトナムの方なんですけど、在日韓国人の方の会社で働いていたんですね。その方の息子や娘が継いでくれないって話になったので、それでどうしようかなとなって、従業員だった高山さんが工場を買ったって話だったんですよ。

    だから日本人が引き継ぐという話ではなく、もう既に外国人から外国人へリレーがされてる。そういうことが長田では起こっているという面白い話を伺いました。

    市川 課題って、人間が高齢化して、少子化して…と大きな話で括られがちなんだけど、ヒントと課題が今ぐちゃぐちゃになってる状態なので、解像度上げてみるとインスピレーションを与えてくれるものがそこに生きて存在しているなと感じましたね。

    「KOELは長田に移転するべき」

    ——続いて次のテーマの「書籍になったものを読んで気がついたこと」、書籍化を通じて発見した新たな視点があればお聞かせいただけますか。

    田村 僕は「ビジョンデザイン」という言葉がなかなか悩ましいなと思って。書籍の巻末の対談にも掲載されている話なんですが、先ほど田中さんもおっしゃってましたが「ビジョンとは予言ではなく、自分たちがどう暮らしたいのかを考えてやることである」と教えていただいて、それは確かになと。ビジョンってゴールに見えちゃう感じがあって、ビジョンデザインというと特に自分たちが達成すべき目標を作る話に聞こえちゃうんだけど、そういうことでもないんですね。

    その時に大事なのは、未来と今の現実と照らし合わせて「自分たちがどうなっていきたいのか」を構想し、共にどう実現していくのか考えていくこと。だとすると、これってデザインの範疇を大幅に踏み越えてくると思うんです。

    セミパブリックの話も、KOELがNTTドコモビジネスのデザイン部門だから、こういうことを言うんだろうなと思っているんです。普通「そこは仕事なんですか?」「お金儲かるんですか?」みたいな話とか出てきそうじゃないですか。だからもし普通の会社だったらセミパブリックみたいなことは言い出さないのかな?と。

    NTTグループって、ある種の「公の器」でもあるじゃないですか。公共性を持ったNTTグループだからできることでもあるとも言えるし、逆に「NTTグループだからやらないと」って責任感の話だけだったらみなさんつまらなくないですか?みたいな話もあって。

    ビジョンというのは単純にミッション・ビジョン・バリューを決めるものではなくて、これが自分たちの暮らしや自分たちのありたい姿をどうやって実現していくか、デザインの側から発信してくれたら僕は価値があると思いますね。

    田中 プロトタイプができることって、デザインの強みだと思うんですよね。なので、こういう社会になりたいというところを、最初にプロトタイプして、一足飛びでは行かないところをどう解決するのか、それがこれからのデザインに求められることじゃないかという気持ちでやっています。

    田村 だから僕は、デザインスタジオが東京にある意味ってあまりないなと思っていて。むしろ、デザインスタジオが課題の先進地にあった方がいいだろうと思っているんです。ぜひKOELは、長田とかにデザインスタジオを移していただいて、そこで実際に先端的なビジョンデザインを追求していけるんじゃないかと。それを強くお勧めしたいと思っております。

    田中 …だそうです(会場笑)

    市川 実際に地域のデザインスタジオ、ニーズがあるはずです。「見てきたことを伝えること」ってすごく難しいじゃないですか。アンケートだと「こういう数字が出ました」しか言えないけれど、「自分の暮らしも長田にあります」っていう人だったら、ちゃんとした答えが返ってくる。その解像度でいろんな地域からソリューションを考えていくことは大きな財産になると思います。

    田中 確かに最近の地方創生系プロジェクトは「現地に行くのがあたりまえ」になりつつありますね。ただその一方で、都市部に集まる財務資本と、地域の豊かな自然資本や社会関係資本をつなぎ、共に価値を創出していく営みが重要になってくるのかなと思います。なので東京という場所から、地域と連携しながら新たな価値を共創することにもこだわりを持っています。

    田村 そうなんですね、なるほど。

    市川 …これはもしかして物別れに終わる? (会場笑)

    ただ今回の取り組みでいろんな地域にご縁ができましたからね。一緒に考える仲間が増えたと感じます。

    田中 やはり地域だけで解決できることだけではないと思うので、俯瞰で見ることを並行して行うのも大事じゃないかなと。

    田村 でも、地域で見てきた人たちのモデルや考え方、ロジックを取り出してきて横に展開することは、多くのプロジェクトやリサーチに求められるところだと思っていて。例えば地域の中の人間関係からしか生まれてこないものってあるじゃないですか。

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    今回めちゃくちゃ面白い、忘れられないことがあって。先ほど長田の紹介で鉄人28号 モニュメントの写真が出てきたと思うんですけど、この鉄人28号を建てるプロジェクトを引っ張っていた一人がお肉屋さんだったんです。そこの創業者の方に「これはどういう経緯でできたんですか?」と聞いたら「あんなの、ノリや。ノリ以外であんなのできるか?」って言われて、僕はそれを聞いて何も言えなかったんです。

    きっとロジックでこういうことはできないんですよね。そういう地域の歴史がちゃんと残らないのはちょっともったいないなと思う気持ちもある。だから、こういう人たちがいて、こういう雰囲気なんだなとわかること、それが大事だと世の中に認められることを大切にしたいなと思うんですね。

    市川 地域で人が少なくなるからこそ、一人一人がテクノロジーも使いながら、いろんなものを紡いで、独自の答えを出しているというのが今だと思っていて。

    例えば阿東の「ほほえみの郷 トイトイ」も、スーパーでもあり、モビリティの拠点でもあり、福祉・デイケアの役割も担っている。あんな複合的なものを持つ場所が成立するかどうかって、その場で見ないとわからないですよね。それを直接一回見られると、これくらいの関わりがないといけないんだ、と理解ができる。このような仕組みを実感として持てるといいですよね。

    田中 みんな信じられないぐらいフレキシブルでしたよね。それが複業につながり、インフラの網を埋める人の力みたいなものの動力になっていることを現場ですごく感じて。

    市川 「ワンストップで全部提供できます」みたいなことじゃないんですよね。「何がまずあるといいか?」から、ちょっとずついろんなものが完成していく。いわゆる “大文字Dのデザイン” じゃなくて、生っぽいプロセスみたいなのが実感できる。

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    人口減少社会でデザイナーの役割はどう変化するのか

    ——そういった人口減少、高齢化のような社会の変化が起きていく中で、デザインのあり方・使い方はどう変わっていくんでしょうか。

    田中 「これからのデザインの使いかた」と本のタイトルにもありますが、完璧なものを提供するというよりも、さっと見せるようなプロトタイピングが現在デザインの力で重宝されているところだったなと思っています。

    最終形態としてのアウトプットを作るところだけではなくて、その背景にある理論を考察の最中にも活用できるのがこれからのデザインの使い方であって、その応用がビジョンデザインのような営みじゃないかと思っています。

    田村 人口減少という話と、このデザインの変化の話の接点はあると思います。最近はお米が高くなった、本当に米農家がいなくなっている実感があって。僕の知り合いに米農家がいっぱいいるんですけど、いよいよ「お米を分けてよ」って言えなくなっちゃった。米欲しいって人がいっぱいいる中で「米が欲しい」っていうのはちょっとダメな感じがする。

    つまり、人口減少が世の中のスタンダードになってきたときに、今までだったら人に頼んで何とかしてたことができなくなると。それが現に山口の阿東とかで起こっている。百姓っていうのは百の生業をこなすものを “百姓” っていうんですよね。地域の中でその百個のなりわいをみんなでやって暮らしを作っていく。

    そのデザインやサービスを考えるときに、お願いする人とそのサービスを受ける人、クライアントとサービスの関係性が、今後の社会の中でどれだけ成り立つんだろうかという疑問が出てくるわけですよ。

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    僕はデザインも同じだと思っていて、例えばクライアントの人がこういうデザインをしてください、じゃあこのデザインをお返ししましたのでよろしくお願いします、というような関係性で伸びていく領域っていうのはどんどん狭くなっていくんじゃないかなと思っています。

    デザイナーが百姓的になるみたいな形で、デザイナーはいろんなことができます。いろんなことをやりながら、でも一方なんか例えば、納品して終わりみたいな話じゃなくて、そこからそれがどうすんだってなって、最終的にどんな形になって、それを使ってどんな社会に関与していくのか、どこまでやるようなことになるのかと思っていると。

    何か完成形を作って終わりじゃなくて、寄り添う、ある種のケアとしてのデザインがこれからデザイナーに求められるという話をしていて。僕は人口減少にデザインを重ねたときにそういう解があるのかなと思います。

    市川 デザインってふわふわしたものに見られがちですが、圧倒的にネガティブなことをみんなが語っているときに「でもこんなやり方があるよ」と言い続ける力があるのがデザインだと思っていて。

    今回小浜でお話を聞いていた方たちから「あんたそんなこと考えてたの?」ってお互いに驚いていたことがあったんです。自分たちはこうしたい、こう生きたいと思っている、そういう話を実はみなさんほとんどしていないんです。そこに私たちが入ってそれを可視化したことをありがたいと言われたのが印象に残りました。

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    可視化する、あるいはつなげる。ファシリテートしたりメディエイトしたりする。そういう力がデザインにある。そういう気づきを与えるデザイナーの働き方をもっとやりましょうと。書籍の中ではそういった情報が、人の形で書かれていたり、あるいは地域っていう形で書かれていたりしますが、そこから少しでもヒントを皆さんが得てくれたら嬉しいなと思っています。

    田村 デザイナーとしての生き方にどんな可能性があるのか…僕もデザイン教育に携わっている人間のはしくれでもあるので、若い人たちが悩んでいるのも見ているんです。

    …ちなみにKOELはめちゃ人気です。これ本当なんです、皆さん。

    田中 (笑)

    田村 だからデザイナー職の若い子たちはすごく悩んでいて、別にグラフィックデザイナーとして生きていきたいわけでもないし、UXも面白いんだけど将来ずっとやり続けたいものでもない。だから何をやりたいか考えたときに「答えを出すデザイン」じゃなくて「寄り添うデザイン」をやりたいと言っている人たちが多いと思います。

    市川 茨の道であることは間違いないんですよね。だけど、意味がある。

    田村 MOMENTってRE:PUBLICが出してる雑誌があるんですけど、その中で出てきた話でヒーローとしてのデザイン——要するに何か自分がデザイナーとしてすごい力を持っていてヒーローとして快刀乱麻、解けない課題をバシバシ解決する話と、もう一つは今までのデザインってのは基本的にスマートを目指してきたけれど、もっと愚直に知恵を寄せ合って解決の糸口を見つけ出していくのがいいよねって話と。デザイナーが中心人物になるわけじゃなく、みんなでワイワイやりながら、全体をいい方向性に向けていく。そんなところにデザイナーの職能があるんじゃないかと言っていて。「今までのデザインはあまりにもスマート型に偏りすぎてたんじゃないのか」って指摘しているんですね。

    田中 確かに世の中が大きくなっていくときって、みんなで上に上がっていくことができた構造だったと思うんですけど、人口が減って社会全体が小さくなっていくなんて、日本人が歴史の中で経験したことがないんですよね。

    そのとき、どうデザインを使っていくか、何を作っていくか。そもそもの土台が変わってしまったことを受け止めて方向転換しなくてはならない状況で、旧来の憧れを糧とした牽引力よりも、みんなで一緒に開拓していくことが、今必要な動きなんだと感じています。

    「分散」するために私たちができること

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    ——ここからは来場者のみなさんからいただいたご質問に答える質疑応答になります。

    (質問)

    どうして最初に山口県の阿東地区を選ばれたのか。なぜそこをご存じで、なぜそこに至ったのかをお伺いしたいです。

    田村 阿東は山口情報芸術センター[YCAM]の人たちと話をしている中で、「阿東、めっちゃ面白いです」って言われたことがきっかけでした。

    田中 現地に一緒に来てくださるいいモデレーターがいらっしゃったこともありますし、高齢化率60%に近いという数字が阿東で出ていたので、そういう意味でも阿東を見てみたいという点もありました。

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    (質問)

    「リサーチを抽象化しすぎると抜け落ちる」という話がありましたが、今回いい匙加減でできたポイントや視点はありますか?

    市川 リサーチの設計というよりも、「リサーチで何をしたいか」が抜け落ちると抽象化しやすいと思うんですかね。後々何か見つかるかもしれないからデータを集めようとしても、なんとなくやっても使えないんですよ。「何をしたいか」という視点がないと、ぼんやりしたものしか出てこなくなる。書籍の中でも仮説を立てるまでのプロセスがかなり書いてあると思うんですけど、「もしかして退職したらどうこうという話じゃないんじゃないの?」というところから「どうせ来たるべき未来があるんだったら、今からできることって何だっけ?」と。すると対象とする年齢や視点が変わったんです。

    田中 確かに「テーマを抽象化しない」って一番大事かもしれなくて、ちゃんと仮説を持つということと、「仮説を愛ですぎない」というのが意外と大事で。

    市川 そう、「どんでん返し上等」みたいな。

    田中 現場から見えてくることに素直に向き合うのが一番大切なことなのかなと思いました。

    (質問)

    「答えを出すデザインより、寄り添うデザイン」という話がありましたが、手を動かす経験がないとそういったデザインの実務に携われない傾向がある気がしています。また、そのようなことに携われる会社はどういったものがありますでしょうか。

    田村 おっしゃる通りだと思います。特に地域の場合だと「建築」です。自分でどんどん作れちゃうと強いんですよね。地域の人たちとも具体的な話ができるのでスピードが早いんです。

    地域の事業者はみんなこういう仕事のしかたをしてる気がしてます。建築設計は基本、建築家と大工さん、つまりデザイナーと施工者がわかれていて、図面を作って、その図面に基づいて建てるんです。でも僕らが地域で仕事してると、その境界線が曖昧になっているのを目の当たりにすることがあります。

    例えばリノベーションだと「この壁の裏側に何があるかよくわからない」こともあるので、実は設計図に描けないところがあるんです。「出たとこ勝負」みたいなところは、地域に関する話には大体当てはまるんじゃないかと。

    田中 もちろん専門分野のレベル感によって求められる “手を動かす経験” って違ってくると思いますが、書籍の「多彩な文化のむすびかた」の章で書いた、共生の5段階レベルの「与えられる関係をつくる」に近い話だと思っています。手を動かすところの役割にならなくてもいい。でも、自分が担える役割、自分から与えられることを見つければこの「寄り添うデザイン」の実務メンバーになれると思っています。

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    田村 例えば福祉の現場でデザイナーが入って取り組みをされている方たちをよく存じ上げているんですけど、効率はめちゃくちゃ悪いんですよね。あっちに行って、こっちに行ってを繰り返しながら最終的に答えを見つけるようなことをされているので、「デザインがどこに当てはめられるか」というよりは、「ケアの現場にどうデザインが入っていくのか」と考えていたほうが「寄り添うデザイン」との接続が見えるんじゃないでしょうか。

    市川 難しいのは会社じゃなくて行政でも一緒だと思うんですよね。寄り添う役割が ”あるんだけど、ない” っていうか。組織の中で寄り添うことがデフォルトで組み込まれてないので「頑張ってそういう余白を作ってあげよう」っていうのもすごく大事かなと思います。例えば営業にしても、切り出された細い仕事じゃなくて、そこで好きなことをやらせてあげる、現場に寄り添わせてあげることが実は営業の力だったりもする。だから、”あるんだけど、ない…ので作ってみましょう!” というのが少し厳しめの答えかもしれません。

    (質問)

    社会関係資本や自然資本、経済資本など、地域には多様な資本が存在し、それらの資本の構成は地域によってことなると思います。その場合、デザインリサーチを通じて見出された気づきはどのように横展開や事業への活用がされるのでしょうか。

    田村 こういった話は政策の中でも去年閣議決定された「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」というテーマがあるんですよね。今までのビジネスは、経済資本や設備資本など産業側の資本が自然資本を摂取して従属させてきたわけですが、それだともう保たない。なので、自然資本をどうお金に変えていくのかという近代化の営みではなく、地域にまだある自然資本をどうして豊かなものにしていくことができるのかをビジネスを通じてできないか、ということなんです。

    特に自然資本に関しては「どうやって増やすか」、「それぞれの資本が互いにスポイルし合うことなく高めていくモデルをどう作るのか」と読み替えることができるのではないかと思っています。資源が地域ごとに異なるのは当然なんですけども、この方向性自体はどの地域でも同じことが言えるのかな、とは思います。

    田中 書籍の中でも言っているのは、「分散」がこれからの人口が減っていく社会で大事だというのが、私たちが得た一番大きな気づきだったと思います。

    都市の生活ってお金があればサービスも物も買える。でもお金があっても買えなくなるのが、人口減少社会です。先ほどのお米が買えない話も同じで、お金があってもお米がすごく高くて買えない、そもそもお米が売ってないとき、お金の力が弱くなったときに、どうするのか? お米を育てられる自然資本や、お米を分けてもらえたりする社会関係資本など、資本の分散がある種のセーフティネットが、これからの暮らしの豊かさの礎になってくるんだなと思いました。

    人口が減っていく社会では、20世紀にみんなが目指していたような「たくさんお金があること」にあまり価値がないのかもしれない。これからは資本の多元化を考える必要があるなと考えるようになりました。なので、私は町内会のイベントに積極的に参加するようになりました。

    ——ありがとうございます。まだ他にもたくさんの質問をいただいていたんですが、こちらでお時間とさせていただきます。以上で刊行記念イベントは終了となります。本日はお越しいただきありがとうございました!

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    転載元 KOEL Design Studio 公式note

    前編:https://note.com/koelnote/n/n52b52ad86107
    後編:
    https://note.com/koelnote/n/n08d07a775007


    現在KOEL noteで「ビジョンデザイン」の冒頭箇所を無料公開しています。ぜひご覧ください。

    『ビジョンデザイン 〈私たち〉の未来を考える、これからのデザインの使いかた』 田中友美子著 NTT出版
    どんな未来を生きたいですか?:〈私〉のビジョンから〈私たち〉のビジョンへ 。人口減少高齢化社会の持続可能な地域の未来を 4つの先進地域のフィールドワークを通して考える トランジション時代のデザインガイド。公共性とビジネスの両立をめざす〝セミパブリック〟領域で新しい社会インフラの実現をこころざすNTTコミュニケーションズ・KOELデザインスタジオのビジョンデザインの考えかたと使いかた。

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    田中 友美子たなか・ゆみこ
    NTTドコモビジネス(KOEL Design Studio, Head of Experience Design)
    Royal College of Art (RCA: ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)、Interaction Design科修了。武蔵野美術大学非常勤講師。ロンドンとサンフランシスコを拠点に、Hasbro、Nokia、SONYなどの企業でデバイス・サービス・デジタルプロダクトのデザインに携わり、デザインファーム・Methodでデザイン戦略を経験した後、2021年よりNTTドコモビジネスのKOEL Design Studio の Head of Experience Design として、デザインの組織作り、ビジョンデザインを始め、社内全体でのデザイン浸透、事業戦略からデザイン実装まで支援し、社会課題解決に取り組んでいる。
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    田村 大たむら・ひろし
    株式会社 リ・パブリック 共同代表
    神奈川県出身。東京大学文学部心理学科卒業、同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。1994 年博報堂に入社。以降、Webサービスの研究・事業開発等を経て、イノベーションラボに参加。同ラボ上席研究員を経て 2013 年に退職、株式会社リ・パブリックを設立。2009 年東京大学大学院工学系研究科 堀井秀之教授とともにイノベーションリーダーを育成する学際教育プログラム・東京大学i.school(アイ・スクール) を発足、ディレクターに就任。現在、北陸先端科学技術大学院大学にて客員教授を兼任。 著書に『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』(2010、早川書房) など。
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    市川 文子いちかわ・ふみこ
    株式会社リ・パブリック共同代表
    広島県出身。慶應大学大学院にて認知科学を学ぶ。大学院を修了した後、北欧の通信会社にてデザイン部に所属。世界の人々の暮らしから製品やサービスをデザインするデザインリサーチに従事したのち、株式会社リ・パブリック設立。創業後は国内外で産官学民を横断した社会変革・市場創造のプロジェクトを推進。2019年よりサーキュラーデザインファーム株式会社fog取締役を兼務。
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    KOEL Design Studio https://www.ntt.com/lp/koel
    「デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する」をミッションに、常識を超える新たなコミュニケーションの創造、そして公共性とビジネスの両立が求められる「セミパブリック」領域での新しい社会インフラ実現を目指すNTTドコモビジネスのデザイン組織。ビジョン策定や事業の開発・改善からコミュニケーション・組織設計、人材育成まで幅広くデザインを手がけている。
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    株式会社 リ・パブリック https://re-public.jp/  
    持続的にイノベーションが起こる「生態系」を研究し(Think)、実践する (Do)、シンク・アンド・ドゥ・タンク。不確実性と複雑性が高まる社会・経済の中で、セクターを超えて協働し、それぞれの資源や技術、文化を編み上げ、ダイナミックな変化を構想する。その実現に向け、世界のフロンティアで挑戦する人たちと手を携え、ともに実験と実践を繰り返す共同体を生み出している。

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