V27-1
作家への5つの質問
2025年9月のd View
d Viewは、日替わりのカバーアートです。毎月1人のアーティストに焦点をあて、その作家の作品を1カ月に渡って公開します。9月のd Viewでとりあげるのは、アーティストの保良雄さんです。保良さんの作品の背景を知るために、5つの質問に答えていただきました。
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Contents
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Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。
この質問を見たときにパッと思い出したのは、生まれ育った地元にある小さな神社と、そこに漂っていたやり場のない気持ちや孤独感です。この感覚が蘇ってきました。
私は先天性の障がいを持って生まれましたが、家族はとても優しく気遣ってくれていたので、物心がつくまではわりと呑気に過ごしていました。ですがある時から「人と違う」ということに強い違和感を覚えるようになり、「普通になりたい」と強く願うようになりました。その頃は近所の神社に通い、「障がいが治りますように」と祈っていたのを覚えています。今振り返れば意味のない行動だったと思いますが、当時の私にとってこの神社が拠り所だったのだと思います。
Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。
広い世界の中には、先人たちによって「サンクチュアリ」と呼ばれる領域があります。ここ数年のリサーチで訪れたネパールの山岳域や八重山諸島の御嶽も、そうしたエリアのひとつでした。その中では、ときに人ではない何かの目線を感じたり、意識が遠くへと連れ去られるような感覚にとらわれることがあります。
特別なゲートがあるわけではなく、ただ石が積まれていたり、空間に間があったりするだけです。けれど、その場で出会う石や木、光や風の抜け方といった自然物の配置には、言葉では言い表せない完成度があり、場そのものが異なる次元に開かれているように感じ、そうした体験のあと、ふと我に返ると鳥肌が立っているんです。
Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。
まだ視界が開けたという感じを得たことはないかもしれません。私の場合作品の形態として年月が進むことで見えてくるものも多く作品との対話が続いているという状況だったりします。
たとえば、2022年のReborn-Art Festival[★01]★01で発表した《this ground is still alive》[★02]★02という畑の作品は、会期終了後も地元の方と共に種を蒔き、収穫し、種を採ることを続けています。とはいえ、まだ3回しか経験できていません。だからこそ、その営みが時間をかけてどう広がっていくのか、これから先の積み重ねの中で少しずつ見えてくるのだと思います。
Q4 今回掲載した作品について、教えてください。
今回は作品そのものではなく、制作に先立つリサーチで記録した写真を掲載させていただきました。記録の方法は必ずしも写真だけではなく、現地で拾ったものを持ち帰ることもあれば、音だけを録音することもあります。
カメラについても、最初はデジタルカメラを使っていましたが、回数を重ねるうちにフィルムへと移行していきました。こうしたリサーチの記録は、作品を直接かたちづくる要素というよりも、点のように散らばりながら、思考を導く道しるべのような存在になっています。
Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。
ピカソが語った「孤独なくしては、何も成し遂げられない」という言葉です。彼のような偉大な芸術家でも、あるいは芸術家だったからこそ言えた言葉なのかもしれません。
私の場合、この言葉を彼が語った意図とは異なる形で受け止めています。自分の幼少期の、なんともいえない孤独感の中で「他の者たち」との対話へと発展していったことがあり、その距離感は今の制作にもつながっているのだと思います。ただ時折、その距離感がずれることがあり、そのときは大抵、楽しい時間である一方で、制作への集中を失っている瞬間でもあります。なのでこの言葉を「リセットボタン」として生活の中で見える場所に置き、はっとさせて自分を立ち戻らせるきっかけにしています。
★01 宮城県の石巻を主な舞台とした、「アート」「音楽」「食」の総合芸術祭。音楽プロデューサーの小林武史が主宰するAP Bankや、ワタリウム美術館の和多利恵津子と和多利浩一が中心に運営。 https://www.reborn-art-fes.jp/#about ★02 リボーンアートフェス 作品紹介ページ https://www.reborn-art-fes.jp/artist/takeshiyasura/

- 保良雄
- 人間を含む生物や無生物など、さまざまな存在を「存在」として認めることを制作の目的としている。また、作品制作の一環として農業や養蜂を営みながら、アートの媒介者としての実践を続けている。その制作手法は、手仕事から最新テクノロジーの駆使まで多岐にわたり、エコロジーに潜む優劣や格差などへの批判も織り込んでいる。また、自身の先天性障がい者という視点から存在論と向き合い、理論だけでは捉えきれない人間社会におけるモノとの関係を探求している。写真: ©︎Kito Natsuko