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作家への5つの質問

2025年5月のd View

「今井俊介 スカートと風景」展示風景(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2022年)撮影:KEI OKANO ©Shunsuke Imai

Contents

    Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。

    福井のなんでもない住宅街に生まれ育ったのですが、田舎ゆえに目に入ってくる色といえば木々の緑や空の青とかそんなものばかりだった気がします。冬は鉛色の空と積もった雪で色がなくなったような世界でした。18歳で東京に出てきたときも、まあ東京ってこんなもんだよなと大きなショックとかもなかったわけですが、絵に使う色は不思議とグレートーンの落ち着いたものでした。今のような鮮やかな色を使いたくても身体に染み付いてしまった感覚というのは強固なものだなと困り果てていた頃、ユニクロで蛍光色のフリースが高く積まれたディスプレイを見て、色に飲み込まれるってこういうことかとひとり興奮したのを覚えています。それ以降世界の見え方が変わった気がして、東京の街には色が溢れていてやっぱり田舎とは違うんだなとひとりで納得しました。そういう意味では渋谷や歌舞伎町の統一感のない色の組み合わせというのが原風景のひとつなのかなと思います。

    Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。

    20年以上前にミラノのアンブロジアナ絵画館でサンドロ・ボッティチェリの《聖母子と3人の天使》という作品を観たときの衝撃は忘れられません。絵の前で動けなくなるという経験はあとにも先にもこの時だけでした。小ぶりな作品で、代表作と言えるようなものではないのですが、線の美しさとディフォルメの的確さに驚いたのを覚えています。その後何度かミラノには行っていますが、ここだけは必ず寄るようにしています。

    Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。

    作品の方向性を思い悩んでいた大学助手当時、大掃除の休憩中に学生のスカートが急に目に入ってきました。その学生とは朝から一緒に時間を過ごしていたにも関わらず、そのスカートのことは気にもしていなかったんです。その時に「みる」ってこういうことなのかとハッとした記憶があります。幾何学模様の布がたっぷりとしたドレープとともにそこにあって、こんなにきれいなものがあるならこれ描けばいいじゃんと半ば開き直ったように描いたのが《untitled》 (2011)という作品です。

    Q4 今回掲載した作品について、教えてください。

    スカートを目にして以降の14年ほどの間の作品たちです。ぱっと表層だけを見るかぎりでは、大きく変わったことはなく、技術は上がっているなといった感じかもしれません。ですが、作っている本人としたら本当に驚くくらい変わっているんですよね。続けることでしか見えないちょっとした変化を続けることが僕の興味の一つでもあるので、そのあたりが日々変わるカバーアートで見えてきたらいいなと思います。

    Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。

    “I think that if you can turn off the mind and look only with eyes, ultimately everything becomes abstract”

    というエルズワース・ケリーの言葉は大好きです。物事をただ視覚的に捉えることができれば、それは抽象的な形や色の認識に繋がるというのは、難しくてよくわからないと言われることの多い抽象絵画をみるうえでとても大切なことのひとつだと思います。美術をみる時に、作品を理解しなきゃいけないという思い込みを外せる良い一言。

    今井俊介いまい・しゅんすけ
    1978年福井県生まれ、2004年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。鮮やかな色彩のストライプやドットの模様で構成された、立体的な絵画作品を制作している。2014年に「第8回 shiseido art egg賞」を受賞。資生堂ギャラリーの広い展示空間を生かしたインスタレーションの出品が多いなか、絵画作品に徹した真摯な姿勢と作品の鮮烈さが評価された。近年は、カルバン・クラインやNOWHAWなどファッションブランドとのコラボレーション、出力紙を素材とした大型壁面、布を用いた映像作品など表現の幅を広げつつ、色・かたち・構図といった絵画の基本的な要素を考察し、絵画の可能性と「見ること」の本質を探求し続けている。主な個展に、「スカートと風景」(東京オペラシティアートギャラリー、東京、2023、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2022)、「range finder」(Kunstverein Grafschaft Bentheim、ドイツ、2018)、「float」(HAGIWARA PROJECTS、東京、2017)、「第8回 shiseido art egg 今井俊介 range finder」(資生堂ギャラリー、東京、2014)。展覧会に「MOTコレクション ただいま / はじめまして」(東京都現代美術館、2019)、「Reborn - 未来を発明 コレクション×現代作家」(福井県立美術館、2019)、「絵画の現在」(府中市美術館、東京、2018)など。

    https://www.hagiwaraprojects.com/shunsuke-imai
    https://www.instagram.com/imsn/

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