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機械が書きかえる人間の物語 #2:生成AIで自動化される「ニュース」の未来
カリフォルニア大学バークレー校のジャーナリズムスクールのAI × ジャーナリズムハッカソンより

- 『ARTIFICIAL ADVISORY』 BY AKIHICO MORI
連載「テクノヒューマニティ」では、急速に進化するテクノロジーが、人間の文化的な営みをどう変えていくのか、その最前線をサイエンスライターの森旭彦が探っていく。
第2回目は、前回に続いて、UCバークレーで開かれたAIとジャーナリズムのハッカソンを紹介する。ジャーナリストのための生成AIツールの開発や、AIをもちいたニュースルームの自動化といった新しい挑戦に、ジャーナリズムの未来を展望する。
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Contents
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“イズム”からツールへ:変化するジャーナリズムの役割
1冊まるごと生成AIでつくった雑誌『ARTIFICIAL ADVISORY』――そんな珍妙な雑誌を持って日本からやってきたぼくのテーブルには、ドイツ出身のジャーナリストやシリコンバレーで起業している若者など、さまざまな人物がいた。そのなかで、風貌はヒッピー、口を開けば政治の話を鋭い切り口でしながら「ジャーナリズムは近い将来、ツールになる」と話す人物、ジョシュ・ウルフはひときわ存在感を放っていた。
ジョシュはカリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院の修士課程を卒業した人物だ。一昔前なら彼のようなキャリアの持ち主であれば、ニューヨーク・タイムズやCNNといった大手メディアへという進路が考えられるだろう。しかし彼は現在、プロンプトエンジニアとしてジャーナリストが利用できるAIツールを開発している。

- ジョシュ・ウルフ(左) カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院修士課程卒。 2006年、北カリフォルニア支部の「プロフェッショナル・ジャーナリスト協会」から「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」に選出。Photo by AKIHICO MORI
ぼくはジョシュと打ち解け、ジャーナリズムの未来について彼と議論を重ねていた。彼の意見は、「ジャーナリズムがAIに置き換えられることはないだろう」というものだった。彼の問題意識は、ジャーナリズムのエコシステムに根ざしていた。
「ジャーナリズムをなくすことはできない。ジャーナリストをコンピュータに置き換えることはできないだろう。ジャーナリストには、人間的なつながりや問いが必要であり続けるからだ。いま私たちが直面している問題の本質は、(AIというよりも)私たちが(ジャーナリストに支払われるのに十分な)価値を、ジャーナリズムに認めていないことにある」。ジョシュはそう話していた。日本とは問題意識が異なることを実感する。アメリカには、そもそもジャーナリストが生きていくことが難しいという現実がある。彼はこれまでのキャリアでそれを何度も感じてきたという。
「ジャーナリズムは公共事業として考えるべきだと僕は考えている。政府から、報道の内容に影響を与えない形で補助金を受けるべきだろう」とジョシュは話す。ジャーナリズムの社会的な機能の一部は、社会的な保護が必要かもしれない。アメリカの有力紙であるワシントン・ポストが直面する経営難がそれを物語っている。
ワシントン・ポストは2025年1月7日に、同社の事業部門全体で約100人の従業員を解雇した。もとより経営難に陥っていた同紙がさらなる苦境に立たされる原因となったのは、ワシントン・ポストの所有者であるジェフ・ベゾスだった。彼がカマラ・ハリス副大統領を支持しない決定を下したことに対し、ワシントン・ポストの購読者とスタッフが反発したものだとCNNは報じている。
「ジャーナリズムはツールになる」と話すジョシュがハッカソンで紹介していたのは、「Pickaxe」と呼ばれる生成AIツールの作成プラットフォームだった。Pickaxeは、GPTモデルなどの言語モデルを用いて、誰でも簡単にAIツールをつくることを可能にする。
ChatGPTのプラットフォームは、チャットに特化しているため、ユーザはプロンプトをその都度、チャットをしながら打ち込むことでしか、GPTモデルを利用できない。Pickaxeは、あらかじめ指定したプロンプトのみを実行するようにプログラムをつくることができる。
さらには、特定の文献やガイドラインをアップロードし、利用することもできるほか、GPT以外のClaude(Anthropic社が開発した大規模言語モデル)などのモデルも利用できる。つまりは、生成AIを自分だけの道具にカスタマイズして利用できるのである。誰でも簡単に利用できることから、多くがフリーランスのジャーナリストにとって非常に有用だと言える。
ジャーナリズムの機能はツールとなり、ジャーナリストをエンパワーしていく。ジョシュとの対話からはそんな未来が垣間見えた。
たった15セントでポッドキャストを量産する
カヴェ・ワデル(Kaveh Waddell)は調査報道を得意とするジャーナリストだ。しかし現在、彼はサンフランシスコをベースとするAIコンサルティング・ラボへと転身している。彼が起業したのは、AIを活用したニュースルームの自動化を推進する、現在は非営利の『Verso』だ。

- カヴェ・ワデル(Kaveh Waddell) コンシューマー・レポート誌デジタルラボの調査報道記者、AxiosおよびThe Atlanticのスタッフライター、レバノンのベイルートでフリーランスの記者といった経歴を持つ。 Photo by Amin Muhammad
彼はハッカソンで、Versoの「Verso Smart」(ポッドキャスト自動生成)のデモを発表した。日本ではポッドキャストはまだまだ、という印象だが、ヨーロッパやアメリカではポッドキャストは報道における主流メディアのひとつだ。BBCやニューヨーク・タイムズと言った大手はもちろん、小さなメディアであっても複数のプラットフォームでポッドキャストを配信しているのはいたって普通だ。個人でも膨大な数のサブスクライバーを抱える人物もいる。たとえば、欧米においてサイエンスのトピックを発信する神経科学者アンドリュー・ヒューバーマンのポッドキャストを知らない人はいないだろう。
「Verso Smartはまず、AIが膨大な量の論文を読みます。そしてユーザーの関心にもっとも合う8件を提案し、そのなかから3件を選ぶように求めます。さらにAIはそれらの論文を言語モデルへ渡し、ポッドキャストの原稿を作成します。次にその原稿が音声変換ツールに送られ、ポッドキャストが作成されます」とカヴェは話し、実際にデモをやってみせた。
驚いたのは、このデモが昼下がりの屋外のカフェテーブルで、ほんの10分程度で行われたことだった。しかも情報の取得という点では十分なクオリティを持ち、なんと1エピソードあたり約15セント(日本円で約23円)でポッドキャストがつくれてしまうという。
「このシステムはさまざまな用途に使えます。たとえば、議会で何が話されているかをモニターし、最も興味深い部分を見つけ、それを自動的にニュースレターにすることもできます。さらには世の中のポッドキャストをモニターし、それをニュースレターに変えることもできます。多様なデータをジャーナリスティックなアウトプットに変えるまでのワークフローにおける、あらゆるステップでAIを活用することができるのです」と、カヴェは後日サンフランシスコで再会した際のインタビューで語ってくれた。
デモでは、査読前論文を掲載するプレプリントサーバ「arXiv(アーカイブ)」の論文を用いていたが、プログラムすればアクセス可能な他のデータソースにも置き換えることができるという。ポッドキャストについても、言語はもちろん、好みのトーンやスタイル、専門性のレベル、異なる合成音声を選択できるように調整することも可能だ。
「現在のアメリカのメディアは少し保守的です。共和党保守主義という意味ではなく、大きなリスクを負うことに少し臆病になっているということです。最近の世論調査によると、メディアを信頼できる情報源だと思っているアメリカ人は3分の1以下です。主要なメディアは当然のことながら、思い切った行動に出ることはできないと感じています。しかし、それは少し矛盾していると私は思います。私たちは、こうしたAIツールによって、より正確で、より的を絞った、パーソナライズされた情報を提供することが、コストをかけてでもメディアの信頼を再構築するのに役立つと本当に考えているのです」(カヴェ)
彼は「Verso Smart」について「編集者のように考え、開発者のように構築する」プログラムだと、自身のサイトで振り返っているが、このシステムは、報道のプロセスを熟知しているジャーナリストだからこそ設計できるものだと言えるだろう。
共存の先にある、新しいジャーナリズム
ハッカソンでは最終日に考えたプロダクトのプレゼン(デモ)が行われ、優秀なプロダクトにはアワードも贈られた。
ぼくたちのグループは残念ながらアワードは逃したが、個人のジャーナリストをエンパワーする方法として、Pickaxeのパーソナライズド・ツールを提案した。たとえばぼくの場合はサイエンスライター向けのツールだ。サイエンスライターには、独自の調査方法や記事の書き方などがある。これをPickaxeでツール化すれば、ジャーナリストをサポートすることができる。
ぼくが開発したツール「Research assistant for science journalist」は、トピックを指定すると、まず最近のカルチャーや科学に関する、信頼性の高い5つのニュース記事をリストアップしてくれる。さらに学術的な参考文献を検索し、これも信頼性の高いものを5件リストアップする。最後に、MITスタイルガイドラインに従い、参考文献リストとともに学術論文を参照し、1000語の下書きを書き上げてくれる。現在はこのツールをさらに改良したものを実際の仕事でも活用している。もっとも下書きはそのまま使えそうもない(使うべきではない)ものだが、一定の完成形の目処として参考になる。
アワードに輝いたグループを少し紹介しておく。彼らが開発したのは、ジャーナリストがどのようにして記事作成をしたかのメタ情報を読者に提供するサービスだ。「Slyce」と名づけられたそのサービスは、記事のソース、インタビューの記録、編集プロセスを読者と共有でき、フィードバックも可能にすることで、新しい信頼性の構築を試みている。
他には「コミュニティミーティング・チャットボット」ツールがあった。地方自治体で開かれる公聴会に出席し、そこで議論された内容をチャットツールの形で公開することで、政治と人の関係性を再構築するというものだった。
ハッカソンで展開された議論とプレゼンから振り返ると、ジャーナリズムの自動化は進むが、人間がするべき仕事はさらに深化するという見方が強かったと言えるだろう。そして、生成AIは、その初期には大きな変化をジャーナリズムに強いることが予想される。
しかしその短所に気を取られ、避ける時期はもう終わっているのかもしれない。いまはすでに、積極的に共存し、新たなジャーナリズムの方法をつくっていくことが人間のジャーナリストには求められている時期にある。少なくとも、そうすることでしか、進歩を続ける生成AIをジャーナリズムのコントロール下に置くことはできない、と言えるだろう。

- Photo by Amin Muhammad
最後になるが、今回は公募制のハッカソンだったが、日本人の参加者はひとりもいなかった。たしかに交通費の問題や、言語の壁など、いろいろな問題はあるが、こうしたハッカソンやイベントは世界各地で開かれている。そこでしか得られないネットワークやアイデアは、なにものにも代えがたい価値がある。現にぼくはその価値を形にすることでこの記事を書き、ことばをつくるという人間の営みを再確認している。今後はここで得たネットワークを使って日本でイベントなども計画中だ。
そして今回は奇しくも、1年前に自分の作品『ARTIFICIAL ADVISORY』で提起した問題が、すでに現実のものになり、それを超えて現実は進化し続けていることを目撃することができた。自分が見た未来に自分がいる感覚は、得難いものだった。作品をつくらせてくれた「量子芸術祭」、そしてこのハッカソンに参加する機会をくれた、素晴らしき親友、アーティストのエイミー・カールに心から感謝したい。

- 森旭彦もり・あきひこ
- サイエンスライター。最先端のテクノロジーやサイエンスが社会をどのように変容させているかを多様な視点から考察する。国内外の科学者やアーティストを取材し、 WIRED日本版などに寄稿している。ロンドン芸術大学大学院メディア・コミュニケーション修士課程修了。在学中にBBC(UK)やWIRED(US)のジャーナリストに協力を得たインフォデミックに関するプロジェクトが南チロルの新聞『Südtiroler Wirtschaftszeitung』などで取り上げられている。こっそりと小説を出版している。 https://www.morry.mobi