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機械が書きかえる人間の物語 #1:生成AIで自動化される「ニュース」の未来

カリフォルニア大学バークレー校のジャーナリズムスクールのAI×ジャーナリズムハッカソンより

機械が書きかえる人間の物語 #1:生成AIで自動化される「ニュース」の未来の画像
『ARTIFICIAL ADVISORY』 BY AKIHICO MORI

新連載「テクノヒューマニティ」では、急速に進化するテクノロジーが、人間の文化的な営みをどう変えていくのか、その最前線をサイエンスライターとして国内外で活動する森旭彦が探っていく。

生成AIの社会利用が進むなか、報道(ジャーナリズム)はどうあるべきなのか? コンテンツ作成を効率化するツールとしての可能性を感じさせながらも、データセットに起因する偏見(バイアス)、生成における著作権の問題など、数々の課題が浮き彫りになっている。第1回は、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院で開催されたAIとジャーナリズムのハッカソンに、その未来を追った。

Contents

    世界屈指のジャーナリズムスクールは、シリコンバレー至近にある

    2025年1月16日、GoogleがAP通信と提携したことが報じられた。今後はGoogleが開発した生成AIモデル「ジェミニ」を利用し、AP通信は最新ニュースを配信するという。報道とITの大手の提携とあって、今後の影響が注視される。

    一方で課題も数多く報告されている。同日、ワシントン・ポストは、アップルが開発している生成AIを統合したシステム、Apple Intelligenceが提供するニュースの要約機能により、数多くのニュースが誤って伝えられたことを、「ニュースに幻覚を見せた」と批判し、アップルがこの機能を最新アップデートで無効にしたことを報じている。また1月15日にWIREDは、広告収入を悪用するためにつくられた生成AIによる“盗用ウェブサイト”の増加を報告。これらのWebサイトは、あたかもBBCなどの高い信頼を得ているメディアのように存在しているため、読者は知らずにそれらのサイトを訪れてしまうという。

    これからぼくたちの「知ること」や、さらには世界のあり様を記述するという人間の営為は、個人的な信条・判断はどうあれ、社会的にはAIとの共存が前提となっていくのだろう。

    世界でもっとも有名なジャーナリズムスクールのひとつは、シリコンバレーのすぐ近くにある。カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院(UC Berkeley Graduate School of Journalism)だ。

    2024年10月、ここでAIとジャーナリズムの交差点を模索する“ハッカソン”「AI/Journalism Hackathon at UC Berkeley」が開催された。ハッカソンとは、「ハック(hack)」と「マラソン(marathon)」を組み合わせた造語であり、特定の分野に詳しい専門家やエンジニアが集まり、数日程度の短い期間で、解決策となるアイデアをプロトタイピングし、実際にデモを行うというものだ。

    今回のテーマは、「AIを活用して地域社会の信頼を高め、関与を深める(Harnessing AI to Enhance Trust and Deepen Engagement in Local Communities)」こと。本稿では、このハッカソンに参加した経験から、生成AIとジャーナリズムの未来について書いてみたいと思う。

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    到着してすぐの初日、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジに沈む夕日を見ながらジャーナリストたちとの会食と談話。参加は、アメリカ国内からが多いイメージ。 Photo by Amin Muhammad

    ハイジャックされる文脈:雑誌の皮をかぶった“真っ赤な嘘”

    AIとジャーナリズムが交差する場として注目されたこのハッカソンでは、報道におけるAI技術の活用可能性と課題が多角的に議論された。参加者はジャーナリスト、エンジニア、デザイナーなど多様な背景を持ち、それぞれの視点から報道の未来像を模索していた。議論は、AIによるコンテンツ生成が持つ倫理的問題や、報道の正確性をいかに担保するかという課題だけにとどまらず、AIが地域社会との関係性をどう深められるかという、より広範な視点にまで及んだ。特に、地方ニュースが抱えるリソース不足や、地域コミュニティとの信頼関係の構築という課題に対し、AIが具体的にどのように貢献できるのかが焦点となった。

    さて、なぜこのテーマにおいてハッカソンが重要なのか。それは生成AIが「誰のものかわからない、しかしもっともらしい表現」を紡ぎ出す厄介者だからだろう。ここに証拠がある。実は前の段落の文章はChatGPTが書いたものだ。まったくの嘘なので(とはいえ、わりと合っているのが怖い)、忘れて先を読んでほしい。

    このようにもっともらしい文脈(コンテクスト)に生成AIの生成コンテンツが現れると、人はまったくその内容に気づくことができない。この文脈のハイジャック(乗っ取り)とも言える現象は、生成AIのジャーナリズムへの利用がもたらす、根本的なリスクのひとつだろう。先の生成AIによる“盗用ウェブサイト”もその一例だ。

    人々はニュースを理解する際、特定の報道機関やジャーナリストに対する信用を文脈として組み入れている。「あの人(メディア)が言っているから間違いない」という文脈があるからこそ、人はニュースを信じられるし、それを前提にして、この世界のあり様を把握し、他者と共有している。しかし生成AIの登場によって、この文脈が簡単にハイジャックされるものになった。SNSを見ればフォロワー数は良心よりも雄弁であり、アルゴリズムはバイラル(拡散)や炎上に人々を焚きつけ続けている。このメディア環境において、「文脈さえ与えられていれば、中身はAIでOK」といった、一見悪夢に見える未来は、もう人知れず到来しているのかもしれない。

    文脈のハイジャックを、実際に形にしたらどうなるのだろう? そんな関心から、ぼくは『ARTIFICIAL ADVISORY』と呼ばれる作品を1年ほど前に制作した。そしてこのハッカソンで発表してみたらどうかという誘いを受けたのが、今回参加した理由でもある。ハッカソンでは、議論を活性化させるために、随時、専門家からの「インスピレーショントーク」が行われる。ぼくはそのうちの一人だった。

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    『ARTIFICIAL ADVISORY』 BY AKIHICO MORI
    テキストは、学術論文、既存の論争のパータン、特定のテクノロジーマガジンの文体などを学習させて生成されている。編集はカット&ペーストのみで、人間が直接言葉を編集せずに制作されている。

    『ARTIFICIAL ADVISORY』はものすごく単純なもので、1冊まるごと生成AIでつくった雑誌だ。つまりこのマガジンは、すべてのコンテンツをChatGPTやMidjourneyといった生成AIでつくっている。人間の手による編集はほぼ行わず、すべてプロンプト(ユーザが入力する指示)で制御されたコンテンツだ。これに対し、既存のテクロジーマガジンを彷彿とさせるエディトリアルデザインを加えている(こちらは人間の手作業)。つまりこれは、雑誌の皮をかぶった“真っ赤な嘘”なのだ。

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    森旭彦さん
    夢中でプレゼンするあまり時間切れに。 Photo by Amin Muhammad

    ちなみに、雑誌という形態を選んだのは、マスメディアとしての歴史が長く、ビジュアルとテキストによって編まれた1冊によって、人が「ここには世の中の出来事の一部が写し取られている」と錯覚しやすいメディアだからだ。この機能さえ実現できれば、メディアはWebサイトでも、あるいは新聞のようなものでも同じことができるだろう。

    この作品をアート展示やワークショップなどを通じ、多くの人に読んでもらった。興味深かったのは、「これは生成AIでつくったものですよ」という事前情報を与えると、人は「なんだか読みにくいね」などと反応する。一方、何も言わずに見せると、「これは、本屋でも買えますか?」といった反応になる。文脈をどのように与えるかによって、受け取り方がまるっきり変わる。裏返せば、生成AIは、文脈のハイジャックに十分耐えうるものであり、情報の複雑な構造を生み出すことができる、ということだろう。

    なお、作品名につけたADVISORY(助言)とは、ハイジャックへの警告に他ならない。まさに、この作品を通して生成AIの大きな可能性が確認できた。

    次回は、ハッカソンで出会ったエンジニアやジャーナリストたちの議論を通じて、生成AI時代のメディアについて考察していこう。

    (#2につづく)

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    プレゼン中に『ARTIFICIAL ADVISORY』のダウンロードQRコードを投影。皆がダウンロードすべくスマホをステージ上のぼくに向けているところを、逆に撮影。みな笑顔で素敵だ。
    森旭彦もり・あきひこ
    サイエンスライター。最先端のテクノロジーやサイエンスが社会をどのように変容させているかを多様な視点から考察する。国内外の科学者やアーティストを取材し、 WIRED日本版などに寄稿している。ロンドン芸術大学大学院メディア・コミュニケーション修士課程修了。在学中にBBC(UK)やWIRED(US)のジャーナリストに協力を得たインフォデミックに関するプロジェクトが南チロルの新聞『Südtiroler Wirtschaftszeitung』などで取り上げられている。こっそりと小説を出版している。 https://www.morry.mobi
    Photo by Masahiro Sanbe

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