V19-1

作家への5つの質問

2025年1月のd View

《Ama Dablam》(2019)

Contents

    Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。

    ぼくは小学校のときから地下鉄に乗って学校に通っていました。その電車のなかで一人読書に耽っていた、あの読書体験が今の自分を作っていると思います。

    小学校低学年のときは大人の腰あたりくらいの身長で、朝の通勤ラッシュのときは大変でした。学校に行く時間は、ほぼラッシュアワーのピークと重なり、ぼくは大人たちのあいだで押し合いへし合い、つぶされそうになりながら流れに身を任すしかありませんでした。車内で大人が身動きできないなか、子どもだけが入り込める隙間のような空間があって、そこに立ってゆらゆらとしながら読書をしていたのが原風景と言えるかもしれません。

    Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。

    小学生の頃、熱心に読んでいたのは、祖父が買ってくれた子ども向けの児童文学全集です。『トム・ソーヤーの冒険』『海底二万里』『ロビンソンクルーソー』『十五少年漂流記』『不思議の国のアリス』などを好んで何度も読んだのを覚えています。冒険や探検に関心を持ち始めたのはその頃ですね。

    Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。

    写真家として生きていくことを決心するに至ったのは『THE VOID』(ニーハイメディア・ジャパン、2005年)というシリーズを大学院の修了制作として発表してからです。原生林のなかに籠もり、毎日森と向き合っていた日々を懐かしく思います。

    先住民マオリの言葉で「アオテアロア」と呼ばれるニュージーランドは、植民者であるイギリス人とマオリが共存する二言語二文化の国として知られています。マオリはあらゆる自然と密接な関係を切り結んできた海洋民で、彼らが大切にしている森を歩いて撮影したのが『THE VOID』でした。

    Q4 今回掲載した作品について、教えてください。

    都市から辺境まであらゆる場所を旅してきて、過去の作品から今に至るまで、多くの写真を提出しました。自分は山も海も空も、そして街の雑踏の中も旅し、写真を撮っています。人も動物も自然も人工物も等しく撮る。見たものをすべて撮る、そんな気持ちで歩き続けてきたのだと思います。

    Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。

    山登りに興味を覚えたのは、中学生の頃でした。旅と登山は親和性が高く、植村直己さんの『青春を山にかけて』などはその典型で、強い影響を受けました。  

    その後、旅の延長として登山をするようになり、高校生になって、自分でも文章を書くようになりました。旅行会社が発行する学生向けの冊子に「高校生でも行けるインド」と題したエッセイを書くことになったのは、高校二年の終わり頃からで、写真を一枚と手書きのイラストも一枚載せた連載をしていて、今の仕事のスタイルにも繋がっています。

    石川直樹いしかわ・なおき
    写真家 1977年東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞。2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞。2023年 東川賞特別作家賞。2024年紺綬褒章を受賞した。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)、『地上に星座をつくる』(新潮社)ほか多数。最新刊に『チョ・オユー』(平凡社)、『Nanga Parbat 』(SLANT)など。

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