V14-1

作家への5つの質問

2024年8月のd View

《ひとりの家》(2020年)

Contents

    Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。

    東京都足立区、バスに乗らないと電車の駅にたどり着けない、どこにでもあるような簡素な住宅街で育ちました。近くに荒川があって、高速道路と橋が架かった風景を見ると懐かしいと感じます。とくに特徴のない場所だと思いますが、陸前高田や丸森に住み、ふるさとを語る人たちと関わる中で、紛れもなくここがわたしのふるさとなのだと思うようになりました。幼い頃は祖父母と同居していて、ものを捨てないふたりの部屋に入ると、独特の饐えた匂いがしたことをときおり思い出します。

    いま思えばですが、わたしの家は“語らない”人たちを中心にまわっていたと思います。祖父は若い頃に事故に遭って認知症のような状態で、いつも祈りの言葉と戦地での体験をぶつぶつとつぶやいていました。また、歳の離れたきょうだいには知的障害があって、“言葉”をほとんど話しません。だからわたしたち家族は日常的に、(いわゆる言葉を)“語らない”人が何を思っているのかを想像し、(本人の意思を本当に知ることはできなくとも)必要があれば代わりに語る、ということをしてきたように思います。

    この13年間、誰かの語りを聞いて書くことを続けてみて、ときに“言葉”にはされなかった記憶や感情を記述することを試みるなかで、これがわたしにとっての原体験なのかも(とはいえ、そう言い切りたいわけではないのですが)と思うようになりました。

    Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。

    東日本大震災のボランティアで石巻に行った時、一階の天井まで津波が上がったお家にあげてもらいました。やっと片付けをしてガスも通ったということで、ひさしぶりに温かい料理が並んだのだと言います。

    おばちゃんたちは、「支援物資のおかげでこんなに丸々太っています〜! 安心してくださいよ〜!」と冗談を飛ばして笑い合っていました。そして、神妙な面持ちで、津波で流されてきた見知らぬ人の遺体をどのように弔ったのか(庭の一角を片付け、そこへ遺体を寝かせて、その周りに水産加工場から流されてきたタコの干物を並べて焼いたそうです)を教えてくれました。

    その翌年、陸前高田を歩いていると、巨大な花畑を見つけました。そこは山際の集落で、たくさんの人が亡くなったそうです。切り花を手向けているのでは間に合わないし、大切な場所に通う理由にもなるからと、みんなで花を植え始めたそうです。

    流されて、一面草はらのようになった風景に色を付ける。花畑は、死者と生者、旅人、そしてここにはいない人たちの語らいの場になっていました。

    被災地域で見た弔いの所作こそ、そして語らねばならないことを語ろうとする人たちの声こそ、とても創造的なものであると感じました。東京の美大生だったわたしにとって、その事実は衝撃的でした。

    Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。

    2014年に制作した映像作品『波のした、土のうえ』(小森はるか+瀬尾夏美)。この作品は陸前高田の嵩上げ工事が本格化するなかで撮影したもので、映っているその時にしか映すことができないものを映すことは、記録者としての基本的な仕事です。

    また、この作品における制作プロセスは、当時の自分にとっては非常にチャレンジングなものでした。まず、被災したまちに住んでいた語り手と一緒に町跡を歩き、その場所でいま思い出せること、感じることをなんでも語ってもらいます。子どもの頃の思い出から震災の体験、これからのこと。その語りを一度わたしが引き受けてテキストに起こし、小森さんに託します。それから、小森さんと語り手本人で読み合わせをしてもらい、テキストを再編集し、朗読してもらい、その声を頼りに映像を編集していきます。

    語るべきものを持っている(つまり“当事者”とされる)人と一緒に、その語りを入れておくための器をつくる。協働者として積極的に関わり、手法や形式を提案し、手を動かす。互いに相談しながら進めた先に、表現が結実する。そしてわたしは、それを外へ/未来へと運んでいく旅人となる。

    この映像作品と、同時期に作っていた平面作品や資料等を組み合わせて、巡回展『波のした、土のうえ』という展覧会のパッケージを作り、日本各地10カ所を巡りました。福島、新潟、東京、神戸、広島……陸前高田の語りを介して、それぞれの土地の語りを聞く。また、それらを抱えて次の土地へ旅に出る。

    作品を介してしかできない、どこかしんみりとした対話のトーンというものがあって、それはきっと大切なものであるはずだと信じています。

    Q4 今回掲載した作品について、教えてください。

    描いた時期はまちまちですが、起きた出来事を2011年からおおよそ時系列で並べています。いつも展覧会だと文章や映像と一緒に構成していて、絵だけを抽出して見せる機会が少ないので、この機会に絵を見ていただけたら嬉しいです。実際に聞いたお話から着想を得て物語を書き、その物語世界のイメージを確かめるようにドローイングを書くことが多いので、タイトルにも注目していただけたら幸いです。

    Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。

    「これだけ大きな出来事があって、語るべき物語が生まれないはずはない。その芽を見つけて、育てていかなくちゃ」

    民話採訪者の小野和子さん

    「NOOK(瀬尾が仲間たちとやっているコレクティブです)の記録運動、やっていきなさい」

    作家の早乙女勝元さん

    尊敬する 大先輩たちの言葉にいつも励まされています。

    瀬尾夏美せお・なつみ
    アーティスト、詩人。1988年東京都生まれ。土地の人びとの言葉と風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。東日本大震災のボランティアを契機に、映像作家の小森はるかとのユニットで活動を開始。岩手県陸前高田市での対話の場づくりや作品制作を経て、土地との協働を通した記録活動をするコレクティブ「NOOK」を立ち上げる。現在は江東区を拠点に、災禍の記録をリサーチし、それらを活用した表現を模索するプロジェクト「カロクリサイクル」を進めながら、“語れなさ” をテーマに旅をし、物語を書いている。単著『あわいゆくころ――陸前高田、震災後を生きる』(晶文社)、『二重のまち/交代地のうた』(書肆侃侃房)、『声の地層――災禍と痛みを語ること』(生きのびるブックス)。共著に『10年目の手記』(生きのびるブックス)、『New Habitations: from North to East 11 years after 3.11』 (YYY PRESS)。 リンク: https://twitter.com/seonatsumi http://komori-seo.main.jp/ http://nook.or.jp/

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