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【対談】谷川嘉浩 × ドミニク・チェン――記憶をとりまくメディア環境はいまどうなっているのか?

記憶をめぐるトーク#2

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ライティング:宮本裕人
写真:高橋宗正

テクノロジーによって便利に情報や記録にアクセスできるようになったにもかかわらず、本当に大切なことが思い出せない。そんな経験はないでしょうか。

インターネットの誕生以降、人類が生み出すデータ量は指数関数的に増加してきました。SNSによって日々ますます多くの情報が「記録」されるようになっているものの、それにともない私たちがよりよく「記憶」できるようになったかといえば、そうではないのかもしれません。

毎日あてもなくSNSをスクロールするものの、次の日に覚えているものがどれくらいあるだろう? 偏った情報、誤った情報がとめどなく流れるなかで、私たちはどのように自分の記憶を世話していけばいいのだろう? そのような問題意識から、DISTANCE.mediaは3月に「記憶のデザイン」をテーマにトークイベントを行いました。

第1部の「記憶と場所」に続き行われた第2部のテーマは、「記憶とメディア」。情報学研究者のドミニク・チェンさんと、哲学者の谷川嘉浩さんが、現代のメディア環境と記憶について語りました。

Contents

    私たちには「ネガティブ・ケイパビリティ」が足りない

    ふたりのトークは、谷川さんが書かれた『スマホ時代の哲学――失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の話題から始まりました。谷川さんがこの本を書かれた背景には、現代人の多くが――そして谷川さん自身も――スマホ依存に陥っているように見えたことがあったといいます。

    信号待ちをしている1分のあいだにも、友だちがトイレに行っている少しのあいだにも、スマホを取り出さずにはいられない。周りの人々がそんな行動をしていることに気付いたとき、谷川さんは愕然としたといいます。哲学は、2000年以上続いてきた長い視野を持つ学問。だからこそ別の学問分野とは違った視点で、「スマホ時代を考えるために哲学にできる仕事があるんじゃないか」――その気づきから『スマホ時代の哲学』は書かれることになりました。

    谷川さんが本書のなかで紹介する概念のひとつが、「ネガティブ・ケイパビリティ」。詩人ジョン・キーツが提唱した言葉で、不確実なものや未解決のものを受容する能力のことをいいます。

    「私たちは、わからないことをわからないまま一旦キープすることができなくなっている。あるいは、人が何かを語り出そうとしているときにも、黙ってその沈黙を見つめることができなくなっている。そんな落ち着きのない私たちには、悠長さを取り戻すための旗印として、このネガティブ・ケイパビリティが必要なんじゃないかと思ったんです」

    身体は基本的にバグっている

    続いてふたりは、人間が物事を記憶するために使う「身体」という“原初のメディア”と、現代において膨大な情報を記録するために使われる「コンピュータ」を対比することから記憶のあり方を語りました。

    歴史を振り返ると、人間とコンピュータの関係には興味深い反転があったとドミニクさんは言います。つまり、のちにAI開発につながる計算機科学の世界では、もともと“人間が考えるように”コンピュータに知性を持たせようとしてきたけれど、あるときから私たちは、むしろ人間をコンピュータに引き寄せて考えるようになってきた。だからこそ私たちは、「スペック」や「CPU」といったコンピュータ用語を人間の能力や知性を表現する際に使ってしまうのかもしれない、とドミニクさんは言います。

    ただ、元来人間の記憶とコンピュータの記録のあり方は、根本的に異なるもの。人間は簡単に物事を忘れてしまうのに対して、コンピュータは忘れることができない。コンピュータは検索やプロンプトをもとにしか情報を探せないのに、人間はふとした瞬間に、思い出したくもなかった記憶が蘇ることがある。

    「だからコンピュータにたとえると、われわれの身体は基本的にバグってるわけですよ」とドミニクさんは言います。「私たちの身体は壊れたコンピュータみたいなもので、現代はそこに、非常に合理的なツールであるコンピュータというものが融合しつつも、摩擦を起こしている部分がどうしても残ってしまっている――それが現状なのかもしれないと思いましたね」

    このほかにも、「吃音」から「忘れられる権利」、「文脈なきインターネット」「失われたオンラインの空間性」まで、さまざまなトピックに及んだふたりのトーク。最後には、これまでの対話を経てドミニクさんの頭に浮かんだ「スマホは精神のコンビニ」という言葉をもとに、スマホとコンビニの共通点が語られました。

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    谷川嘉浩たにがわ・よしひろ
    哲学者。1990年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。著書に『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)、『スマホ時代の哲学』(ディスカバートゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理』(人文書院)、『信仰と想像力の哲学』(勁草書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎、共著)など。
    ドミニク・チェン
    情報学研究者。1981年生まれ。博士(学際情報学)。早稲田大学文学学術院教授(表象・メディア論系コース)。NTT ICC(Inter Communication Center)研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て現職。Ferment Media Researchを主宰し、人と技術と自然存在の関係性を研究している。著書に『未来をつくる言葉』(新潮社)、『電脳のレリギオ』(NTT出版)など多数。

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