V13-1
作家への5つの質問
2024年7月のd View

- 《View, Following the flow, 25 Aug. 2017, 10:56 am》
顔料、アクリル、その他、キャンバス、H145.5xW145.5cm ©️Miyuki Tsugami
-
Contents
-
Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。
“View”
「みえるもの」「眺め」と
「みること」「見方」
道といえば、街といえば、市場といえば、川といえば、山といえば、海といえば。空をゆく機上の窓から覗く眼下の球体の断片上には、目を凝らし見ても不規則な模様が広がりゆくばかりで、どこにも境や名称は見当たりません。使い慣れた言葉での分類を受け入れた名から連想する印象は誰ひとりとして同じではないのでしょう。
画という物理的に不動の場所を眺めることからの鑑賞は、あらゆる描き移された痕跡を手掛かりに、覗き探る個々の数多の景色へと偶然つながっていく自由が、私の思う風景画であり絵画で、人から人に渡るときに少しずれてしまう感じがどの芸術にもあって、そのあわいが芸術を終わらせない理由ではないかと考えます。
つくり手の原風景を明らかにすると、そこに水を差すような気がして心配で、ここで明言することを躊躇しつつも、既に経歴にあるように「東京」「大阪」「京都」、それらの共通項として見えてくる都市界隈の路地風景を形作る基準要素は、今を生きる人の気配とそこに生きてきた人々の数多の痕跡、時間の網、そういった混在と捉えています。
Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。
思考と表現の接点。
今に繋がる、今も続く、長い旅の始まり。
炎天下の漁港、古びた木造舟屋は門のような形状で、外壁は灼熱に渇き、船着き場の内部はひんやりと塩気を保ち、その奥はまるでトンネルを抜けたかの如く、海と空の熱が迫りくるようでした。「複数のコントラストの強さとリズムが魅力的だ」という覚えたての絵画の言葉に、現実風景は上手く切り取られ、絵画にしたいというその衝動に拙い筆は走り続けました。
いったいどのような完成図に向かって、手は進んでいたのでしょうか。私の一方通行の思いは絵画にせんと先走るばかりで、無情にも日は落ちていきます。もう全くいろいろなことが間に合わない、想いと描画、観察と実行、そして形のないものとあるものが往還し続けていく豊かさや面白さに導かれていく感覚。
14歳の夏休み、所属していた美術部の夏期スケッチ合宿にて、偶然見つけた場所からの眺めを一日かけてスケッチをし続けた時間の中で、わたしは絵画に出会いました。
Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。
日常と絵画を同じ地平に。
描くことと見ることの連続、綴っていく、日々の時間。
明治から昭和初期を生きた画家の古いアトリエを有効に活用する若手支援事業の第一回目に招聘され、かの地に滞在し自主制作活動の援助を受ける特別な機会を得て、その長く閉ざされていた画家の住処に立ち入った時の罪悪感と高揚感は忘れられません。大原美術館の収蔵作品の礎を築いた画家の眼の真価が充満しているような空間に、今を生きる作家として立つには、まずは虚飾を捨て、ここに私を届けてくれた理由、絵を描く自身の動機を問いたいと思い、ならばこの場を観察し丁寧に描くことから、形容しがたい状況と向き合うことを始めました。
古来の画家の基礎である、紙に鉛筆で、暫くお世話になる建屋、庭先、そこに無造作にとどまる木々や草花、目に届くものを順番に描く滞在の日々は滑り出し、アトリエから少し離れた宿舎までの道のり、道すがら出会う山や川、水路、立ち止まり描いている時間に出会う土地の人々との会話、街の歴史にまつわる場所を訪ねて描き、それらの一滴は波紋のように画題へと緩やかに流れていきました。通電設備のないアトリエという条件は、太陽の運行通りの一日を繰り返すこととなり、日々をスケッチで描き綴りながらキャンバスへと織り込まれていく制作過程が、ゆっくりと日常になっていきました。
実感を伴う経験からの絵画が、視座を問い続ける真の学問となること、長い歴史の中に自身もあることを知り、描き生きることが、怖くも楽しくもなりました。
Q4 今回掲載した作品について、教えてください。
数字と言葉のひらめき。
「時」としか呼べないことへの、人々による古くからの工夫の軌跡。
人が何の知恵も道具も持たないまま、生きているこの時間を手繰り寄せてみようとしたら、日が昇り日は沈み夜が来て朝が来る、一日のサイクルのみを実感をもって把握し日常に反映することができるのではないかと想像します。
私の作品タイトルには、冠する“View”に続いてそれぞれの作品を形作ったひらめきと結びつく言葉や数字を添えています。今回、日めくりされていくトップページを飾る作品への選出に、絵画のタイトルに含まれている数字と紐づけて新たに綴ることにしました。
Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。
・ヴィクトール・E・フランクル 『夜と霧』(みすず書房)
問いを抱いた時、深まりゆく問いを起立して、それに向かい続けること。
心理学者によるドイツ強制収容所の体験記録。
・ケヴィン・W・ケリー編『地球/母なる星』(小学館)
月面から昇る、半月のような青い星、その上に私たちは居る。
宇宙飛行士たちが綴るドキュメント写真集。

- 津上みゆきつがみ・みゆき
- 1973年東京に生まれ大阪に育つ。京都芸術大学大学院修了。
1966年より作品タイトルに冠している“View”には「みえるもの」「眺め」と「みること」「見方」の両義を示し、人がどのように外の世界を私の世界として捉え、自身の視点から尺度や価値観を構築していくのか、観察し描くスケッチを通して、広義の制作に取り組んでいる事に由来する。2003年VOCA賞受賞。主な個展に2005年「ARKO 津上みゆき」(大原美術館)、2013年「View-まなざしの軌跡、生まれくる風景」(一宮市三岸節子記念美術館)、2018年「時をみる」(上野の森美術館ギャラリー)、2019年「View−人の風景」(長崎県美術館)。
photo: Andreas Weiss courtesy of MIKIKO SATO Gallery