V10-1
作家への5つの質問
2024年4月のd View
-
Contents
-
Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。
神奈川県小田原市で生まれ育ちました。青い海(相模湾)と緑豊かな山(箱根)に囲まれた自然豊かな土地で、年間を通して温暖な気候でとても過ごしやすい場所です。大きな建物や高層ビルはほとんどなく、見晴らしが良いため、小学校への通学路で富士山がよく見えるのが印象的でした。当時はあまり意識していませんでしたが、自然の美しさを当たり前に享受できる環境だったと思います。
Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。
最も遠くへと誘ってくれた作品や体験は2つあります。
まず一つ目は、植物の細密画であるボタニカルアートです。ボタニカルアートには、植物の多様な美しさと、植物学的な正確さが表現されており、いわゆる絵画のようなファインアートとは異なります。このボタニカルアートの存在は、幼少期から芸術に無関心だった私に、新しい芸術への扉を開いてくれました。眺めているだけで視覚的な喜びや感動をもたらしてくれると同時に、科学的な正確さから生物の驚異も感じさせてくれる、とても特別な体験でした。
二つ目は、機械の構造が透けるように表現されているテクニカルアートです。自然に囲まれた環境で育ちましたが、人工的な建築物の、特に構造に興味を抱いていました。幼少期からレゴやプラモデルが好きで、説明書や設計図を読み進める過程に楽しみを見出していた私にとって、テクニカルアートはまさに理想的な作品でした。
ボタニカルアートもテクニカルアートも、私の感性にぴったりとハマり、これらの作品との出会いは、私の人生を変える大きなきっかけとなりました。芸術とは全く縁のなかった私が、創作活動に身を投じるまでの道を示してくれました。
Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。
二つの作品があります。
一つ目は大学生時代に制作した《Yoshino Cherry》という桜を題材にした作品です。当時、ボタニカルアートとテクニカルアートの融合に興味を持ち、習作を繰り返していました。その中で偶然、自分自身でも驚くほどよく出来た作品が誕生しました。3DCGを使ってワイヤーフレーム処理を施す手法で、内部を透かして表現することに成功したその瞬間、普段感情をあまり表に出さない自分でも興奮が抑えられませんでした。自分の作品に感動することがあることに気づき、芸術に対する深い興味が湧きました。
もう一つは大学院生時代に制作した《Lathyrus odoratus》というスイートピーを題材にした作品です。前作《Yoshino Cherry》の成功体験により、さらなる進化を遂げられる可能性を感じ、大学院へ進学しました。大学院では芸術に対する知識や技術不足から劣等感を感じながらも、ひたすら習作を繰り返し、参考となる過去作品のリサーチを続けました。その結果、花をまるで建築の設計図のように図面化した「花の解剖図」という独自の表現方法に辿り着きました。作品を販売する機会も得られ、芸術家としての自覚が強まるきっかけとなりました。
Q4 今回掲載した作品について、教えてください。
花をテーマにした作品を作り続けてきたので、古いものから新しいものまで網羅するように選択しました。年代ごとに様々な試行錯誤があり、中には一見すると何の花かわからない画像もありますが、作品タイトル=花の名称になっているので、キャプションを見ながら楽しんでいただけたら幸いです。
Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。
私にとっての心の支えとなっている言葉は、猪本義弘さん(テクニカルアートの第一人者)と荒俣宏さん(肩書きが多すぎるけど私にとっては博物学者)によるものです。
「写真的画面に拘泥するなら写真を使えばいい。画の興趣を期待するならより印象的な画面作りこそ意図されるべきではないか。写真が一面の事実だとしても、脳裏に描いたイメージの真実にこそ画を描く必然性がある。画は画であって良い。たとえ絵空事であっても、それを信じさせる表現性の高さが実感を誘うものなのだ」(イラストレーター 猪本義弘)
「図像とは、目と心の結合が生み出した、自然には絶対に存在しない大脳の内側のパノラマである。図像の持つ、肥沃な表現力と想像力からさまざまな英知を読み解くこと。すべては目のために、目と心の娯しみのために」(博物学者 荒俣宏)
これらの言葉は、私にとって創作の原点を思い出させ、制作における真実を見つめ直す助けとなっています。私の作家としての道を歩むうえでの指針となり、常に私の心に刻まれています。

- 村山誠
- 1984年生まれ。2009年 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了。 デジタルツール(主に3DCG)を駆使し、植物のやわらかく有機的な形態とつめたい印象のあるテクニカルなスケッチを融合させ複合的なイメージの作品を生み出している。植物図譜の新たな可能性を開くとともに、工学における図面の美的な可能性に対して注意を向けている。 主な個展「Macoto Murayama: growth and form」(D’Arcy Thompson Zoology Museum / Dundee、2016)。主なグループ展「The Future of Making Things」(Autodesk Gallery Pop-up Tokyo/東京、2015)。
