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アーカイヴとウェブ上の記憶をめぐる作業日誌#3
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2月23日(金):ある時代の技術環境は、どのように表現できるだろう。
例えば「OSはWindows 3.1だった」という記述や関連する画像を提示するというやり方がある。博物館式と言おうか。
このやり方でいろいろな事物を並べることはできる。ただ、それだけでは、そこがどんな世界だったかを理解するのは難しいかもしれない。特にコンピュータや通信の環境については、動かしてはじめて分かることもある。
これについては、エミュレーションやシミュレーションをつくるのがよさそう。例えば、ウェブブラウザ上でよいから、PC-9801(NEC)の動作を疑似体験しながら使ってみることができるとか、固定電話がある生活では、なにが起きていたのかをシミュレーターで体験できるとか。そのためには、1994年なら1994年の家庭や職場のサンプルを3Dゲームのようにこしらえて、そこで活動できるようにしてみるのもありかもしれない。
なにを言いたいかというと、技術環境を表現したり理解したりする手段として、その技術なら技術が設置され使われていた環境、もう少し言えばエコロジーをシミュレーション・モデルとしてつくってみるというアイデアである。もちろん言うのは簡単だが、つくるのは簡単ではない。とはいえ、そのくらいのことをしてみる価値はあることだとも思う。
いずれにしても、ある環境なりエコロジーなりを、コンピュータを使って表現する方法については、先例も含めて調べたり考えたりしてみたい。
2月25日(日):物書きとしての私は、半分雑誌に育てられたと思っている。
『InterCommunication』誌を読者として読んでいた当時は、まさかそんなことになるとは微塵も予想していなかったけれど、2006年の第57号から何度か寄稿する機会を与えてもらった。『InterCommunication』は育ての親の1人だ。毎号の特集や各種の記事からいろいろな刺激や考える手がかりをもらっていただけに、2008年に休刊となったのは本当に残念だった。
そして再び言えば、当時はまさかそんなことになるとは微塵も予想していなかったけれど、2023年に開設されたDISTANCE.media(いまお読みのこの文章を掲載しているウェブサイト)に編集委員として携わることになったのは何の因果だろうか。
その新たなウェブメディアで『InterCommunication』のアーカイヴをつくって公開するというのだから、あれこれ妄想も捗るというものである。
2月27日(火):なんだか日誌というよりは、昔話をしているようだが、これは作業の下ごしらえというか、前準備のようなものでもある。
振り返ってみると、私はものを考えたりつくったりするとき、文脈や前提について検討することが多い。物事について「なにがどうしていまのようになったのか」と考えるわけである。
そうした「なにがどうしていまのようになったか」ということを、「来歴」と呼んでもよいし、もう少し大袈裟な表現を使うなら「歴史」と言ってもよい。常に最新の状況だけ見て知っておけばよい、という類のことなら、来歴や歴史について考えなくてもよいのかもしれない。だが、アーカイヴというそれ自体過去につくられたものを収めて保存して、将来再び誰かの目に触れるための条件を整える場では、どうしたって来歴や歴史を考えずにはいられないわけである。
2月29日(木):改めて頭を整理すれば、このラボでもっぱら検討してみたいのは、次のようなことだった。
・DISTANCE.mediaのユーザーインターフェイスとユーザー体験(UI/UX)
・『InterCommunication』を中心とするアーカイヴのUI/UX
こう書いてみると、なんだかぼんやりして分かりづらい。だが、ぼんやりとであれ書いて頭の外に出してみるのは存外大事だったりする。頭のなかにあるものは川の流れのように流れ去ってゆくものだから。仮でもいいので書いて固定してみるわけである。
「ユーザーインターフェイス」と「ユーザー体験」とは、デザイン方面ではわりとよく使われる言葉だろうか。自分なりに平たく言えば「使い心地」である。人がウェブサイトやアプリを使う際にどんな経験をするか。例えば、使いやすいと感じるか、なにか不如意を感じるか。
と、こんなふうに書くと単純な話のようでもあるけれど、もう少し近づくとそうは問屋が卸さない次第も目に入ってくる。
ウェブサイトの使い心地を決める要素には、ウェブサイトそのものの設計、そのウェブサイトを見るのに用いられている装置(とりわけ画面の大きさ、入力手段)、周囲の環境(明るすぎたり暗すぎたりすると使いづらいかもしれない)、ユーザーの心身の状態や装置・ウェブを使った経験の多寡、その人が使っている他のアプリや装置などなど、多様な要素が絡みあって「使い心地」なるものが決まっていると思われる。言い換えると、ウェブサイトのことだけを考えるだけでは済まないなにかなのだ。
こうした要素のうち、閲覧に使う装置やその装置で表示されるウェブサイトの画面表示や操作法をひっくるめて「ユーザーインターフェイス」と呼び、これを使う人の体験を「ユーザー体験」と呼ぶ。それぞれ英語表記"User Interface"、"User Experience"を略して「UI」「UX」と書いたり、両者をまとめて「UI/UX」と記したりもする。
つづく

- 山本貴光やまもと・たかみつ
- 文筆家、ゲーム作家。1971年生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。コーエー(現コーエーテクモゲームス)にてゲーム制作に携わり、在職中から執筆活動を開始。1997年より吉川浩満と「哲学の劇場」を主宰。著書に、『文学のエコロジー』(講談社)『記憶のデザイン』(筑摩書房)、『心脳問題』(吉川浩満と共著、朝日出版社)など多数。



