F3-4
宇宙に意識が生まれるまで
交錯するALIFEとAC(人工意識)研究
-
Contents
-
2023年の夏、北海道大学で開催された人工生命をテーマとするALIFE2023カンファレンスに足を踏み入れた。意識研究者としての視点からこの学会に臨むと、人工的に生命を構築することで生命を理解しようというALIFEの研究には、意識研究と多くの類似点と交錯する箇所が存在することに気づいた。学会終幕のパネルディスカッションにてこの印象を述べたのだが、ここではそこで伝えたかった思索を少々広げて解説したい。生命と意識は、いかにして結びつくのか。
よく似ているALIFE(人工生命)とAC(人工意識)
僕はもともと意識が脳に宿る仕組みをアカデミアで長年研究してきたのだが、その最中で株式会社アラヤを起業し、人工知能(AI)の実社会での活用などに10年近く取り組んできた。その事業の中でAI技術への理解が深まったこともあり、今度はAIの観点から意識を理解しようとしている。そこでたどり着いたのが、意識をAI技術で人工的に作ってしまおうという研究だ。それで新たな「人工意識(Artificial Consciousness、AC)」という研究分野を作ろうと企んでいる。ニューロサイエンスとAI分野の両方の知識をフル活用して意識を理解しようという取り組みだ。
生命と意識、これらは異なる領域の概念とされるのが一般的だ。だが直感的には、生きている存在と、意識、すなわち心を持つことに、何らかの関係性を感じるのもまた事実である。
すべての生き物には、何らかの心が宿っているように思え、意識を持っていたら、それは生きた経験をしているのではないか。これは、子供が生命と出会ったときに直感的に感じることではないだろうか。しかし、これだけでは直感に過ぎず、もちろん生命と意識の違いを述べることも可能である。それでも私は、生命と意識、そして知能の間には本質的なつながりがあるのではないかと考えている。そこに踏み入る前に、まずは、研究領域としてのALIFEが、いかに意識研究と似ているかについてコメントしておきたい。
まず、生命も意識もどちらも我々人間の存在の本質を研究対象としている。存在に関する問いとはすなわち、我々人間がこの宇宙において、なぜ存在し、どのように位置づけられるのかという現代科学にとって根源的な問題である。生命も意識も物理的現象であるはずだが、何をもって一つの生命、一つの意識といった存在となるのか。すなわち、内と外の境界はどこにあるのか。この境界に関する問題において、生命においては「膜」という概念が重要視される。一方、意識においても、脳のどの部分が意識の内側で、どの部分が意識の外側、すなわち無意識の領域なのかという境界問題が存在する。
さらに、ALIFEの研究でも意識の研究でも、システムを情報という観点で捉えるアプローチが非常に似ており、情報が中心的な役割を果たしている。情報の流れや処理方法、生命体が環境に適応する方法、私たちが外部の世界を認識する方法など、すべてに共通して記述する言語は情報理論的である。脳や意識を研究している者からみると、ALIFEで使われる数理的なものは驚くほど共通しており、相互に転用可能な概念が多く存在する。例えば、エントロピー生成といった概念は、脳の中のダイナミクスや意識との関係で議論されるテーマであるが、こういったテーマはALIFEの中でも議論されていた。特に共通性がある点としては、意識研究でもALIFEにおいても、情報の物理的基盤を考慮しているところだと感じた。熱力学で出てくるエントロピーの概念は、情報理論で使われるエントロピーの概念と密接に関連している。さらに、創発現象を扱うために、情報のシナジーや高次のインタラクションも議論されていたが、これらは意識研究でも頻繁に利用される概念だ。
学際性の高さも共通点として挙げられる。ALIFEのカンファレンスでは、非常に多くの種類の研究があり、懐が深い。直接的にALIFEを扱っているテーマを超えて、ロボティクスやAI分野の研究もあれば、脳に関係する研究も多く見かけた。AIアラインメントに関するワークショップもあり、実はALIFEのような観点で議論するのはAI分野の研究者のみで話すよりも有効なのではないかと思える場面もあった。多くの学問分野が交差する様子は、意識研究とも共通しており、その学際性は似た雰囲気を作り出していた。
そして最後に、ALIFEの研究者たちは、その名称が示す通り、生命を人工的に再現することで、生命の本質を理解しようとしている。これは、意識研究には長年存在しなかったアプローチだと思う。ただし、私は意識研究においても、人工的に意識を作ることで理解を深めるという構成論的なアプローチをマイノリティながらとってきたこともあり、このあたりはALIFEとの交錯が活かせる領域ではないかと思う。意識研究者も、AIやロボットに意識を持たせるにはどうしたら良いかということを考え挑戦することで、意識の本質に迫れる可能性がある。
生命から意識へ、意識から知性へ
次に、生命、意識、そして知性の三者がどのように相互に関連し合っているのかという、やや込み入った話をしたい。この三者には深いつながりがあると思うのだが、結論を先に述べると、生命であれば知性を持ち、それは意識を持つということになる、というのが、ここでの主張となる。
生命には多種多様な定義や特性が存在するが、ここでは焦点を絞り、「自己保存的システム」という側面に光を当てたい。自己複製や進化といった特性も考慮に値するだろうが、今の議論ではそれらを置いておく。
自己保存的とは何か。生命もまた物質から構成されるシステムであり、エントロピー増大の法則、すなわち熱力学の法則から逃れることはできない。熱力学の第二法則によれば、孤立系のエントロピー、すなわち無秩序度は時間とともに増大する。そのため、生命がその形態を保ちつつ存在を継続するためには、自己保存性、すなわちホメオスタシスが必要とされる。これは生物が内部環境を一定に保つメカニズムであり、人間の体温が一定の範囲に保たれるのも、このホメオスタシスの一環である。
カール・フリストンは、「自由エネルギー原理」という仮説を提唱しており、もともとは脳の機能を統一的に説明する概念としてこの仮説を提唱してきた。生物は、外部世界の学習から脳の内部に「モデル」をつくり、このモデルに基づいて、これから起こりうることを予測する。この「予測」と実際の外部世界の落差を「自由エネルギー」と呼ぶのだが、脳は、この自由エネルギーを最小化することで、内部モデルを最適化し、適切な行動を選択すると考えられている。
自由エネルギー原理は生命現象、特に自己保存的システムにも拡張され、生命について非常に興味深い仮説を提案している。その仮説とは、自己保存的なシステム(生命)であれば、そのようなシステムは必然的に、外部環境のモデルを内部に持ち、その内部状態が外部環境がどのようになっているかを学習し推論をしているというものだ。この原理によれば、生命は自身の内部状態を通じて外部環境のモデルを構築し、このモデルを基に予測し、行動する。これにより、生命体は外部環境との相互作用を最適化し、自分の生存を実現する。すなわち、生命は、外部世界の構造やダイナミクスについての予測モデルを持ち、感覚入力を通じて得られる情報に基づいて常に更新され、外部環境に適応する。
この理論の魅力は、対象となる生命が脳を持つものに限らず、単細胞生物でさえ、世界モデルを持ち、予測するという点にある。この理論から、神経細胞を基盤としたシステムが進化することも想像できる。
この理論の数理的正確性には異論が存在し、私自身もその数理的欠陥を指摘している。それでも、この理論が精緻化されれば、自己保存的なシステムとしての生命が外部環境のモデルを内部に持つという主張が証明される可能性は高いと考えている。一旦、ここではこの主張の妥当性を仮定する。
意識の誕生は必然だった
この生命に対象を拡張した自由エネルギー原理を、私がこれまでの意識研究の中で提唱してきた「情報生成理論」と組み合わせることで、生命と意識の関係が見えてくる。情報生成理論の主張は、意識の機能は、内部モデルを用いて外界をシミュレーションすることである。情報生成理論によると、意識の核心的な機能は、現在の感覚入力から切り離された可能性のあるイベントの表象を内部で生成する能力である。このような表象の生成は、環境との感覚運動相互作用を通じて学習された生成モデルによって実現される。自分の行動が環境にどのように影響を与え、将来の感覚情報として返ってくるのかを予測するモデルを内的に獲得することで、意図、想像、計画、短期記憶、注意、好奇心、創造性などの幅広い認知機能が実現される。これらの認知機能は意識と関連するもので、反射的でない意図をもった行動に必要となっている。
こう考えると、意識は、生物が内部モデルを使用して内部シミュレーションを実行できるようになったときに進化の中で現れ、それによって入力に直接対応する反射的行動を超えた、柔軟な知能行動が実現されたものと考えられる。そして、このような内的なシミュレーションに基づく未来の可能性の検討は、過去に学んだことを柔軟に応用することで新しい場面において適切な判断を可能とする。これこそが、知性の原型であると考えられる。人工知能の研究などでは忘れられがちだが、自然界の知能は、このように内部モデルを用いてシミュレーションすることで、実際に体験していない場面への適用から生まれた。
このような意識の機能は、さきほどの自己保存的なシステムが内部モデルを獲得することがきっかけとなって生まれてくる。内部に獲得されたモデルは、進化初期においては入力に対して適切な出力を生み出すだけのものだが、それが環境からの直接入力から切り離されてシミュレーターとして活用されるようになることで、計画や思考や意図といった意識的な機能が生まれてくる。これは、自由エネルギー原理の枠組みでも定式化が可能で、入力に対する直接的な反応だけではなく、より長期的な未来まで見据えて自由エネルギー最小化を狙う生命であれば、自然とこのような仕組みが進化の過程で生まれてくることが予期される。
このように考えると、初期的な生命が生じた時点で、世界のモデルを内側に持つシステムが生じ、それを外界から切り離してより知的な意思決定を行う基盤が生まれてきていることがイメージできる。すなわち、この宇宙で生命が生まれることは、意識が生まれることに必然的に繋がっている。おそらく、この宇宙で自己保存的なシステムが生まれることも必然であったことを取り入れると、やや驚きの結論が生まれる。すなわち、この宇宙に意識が存在するのは、偶然ではなく必然である。
もちろん、ここでは多くの概念を単純化している。生命を自己保存的システムと同一視し、意識をモデルに基づく内的シミュレーションとして扱っている。この単純化を超えて考慮すべき点は多々あるのだが、ここでの試論を通じて、生命と意識という、直感的には似ているが、何が共通なのか把握し難い対象について、新たな関係性が浮かび上がることを期待している。

- 金井良太
- 1977年東京都生まれ。京都大学理学部生物物理学科卒業。オランダ・ユトレヒト大学で実験心理学PhD取得。カリフォルニア工科大学にて、下條信輔教授のもとで視覚経験と時間感覚の研究に従事。前英国サセックス大学准教授(認知神経科学)。その後、アカデミアを離れ、株式会社アラヤを設立、人工意識やニューロAIの研究と事業化に取り組んでいる。2020年、内閣府ムーンショットプロジェクト「ブレインマシンインターフェイスの開発」のプロジェクトマネージャーに着任。著書に『脳に刻まれたモラルの起源―人はなぜ善を求めるのか』 (岩波科学ライブラリー、2013)『AIに意識は生まれるか』(イーストプレス、2023)などがある。
