V5-1
作家への5つの質問
2023年11月のd View

- Installation view of “AKI INOMATA: Significant Otherness” at Towada Art Center, Aomori, Japan
Photo: Oyamada Kuniya, ©︎AKI INOMATA courtesy of Maho Kubota Gallery
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Contents
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Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。
東京の都心部で生まれ育った私は、鉄筋コンクリートのビルが林立した都市空間が故郷です。大自然や田園風景とは程遠く、そういったものはテレビの中で見られるもの......。
ただ、通っていた小学校は大学のキャンパスの中にあり、キャンパスの敷地内にはあまり手入れされていない雑木林や、イタドリの生えている広場などの空き地が残っていました。放課後はいつもそういった場所で、生きものを捕まえたり、果実を採取したりして遊んでいました。コンクリートジャングルとは異なり、赤トンボやコオロギをはじめ、多様な生き物に触れることが出来る貴重な場所でした。都市には何故多様な生き物がいないんだろう?といった疑問や、都市空間への違和感や閉塞感を幼少期から感じていました。
都市空間と大学キャンパスの空き地、2つの場所のコントラストは幼少期は原体験となっていると思います。
Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。
小さい頃から絵を描くのが好きでしたし、アーティストになりたいと思っていましたが、当時はあまり現実的な夢ではなかったように思います。
大学生の頃に唐十郎さんの演劇を見て、衝撃を受けました。虚構の舞台と現実の路地裏とがない交ぜになる借景という手法に大きな影響を受けています。
学生の頃は、「都市空間にいかに自然物を持ち込むか」をテーマに、メディアインスタレーションを作っていました。ですが、シミュレーション通りの作品ができてしまうことに、だんだん疑問を感じ始めました。隅々までコンピュータ管理された情報化社会の閉塞感を私自身が再生産してしまっているような気がしたからです。それを打ち破るために、まったく違う思考の「共作相手」である、生物とコラボレーションするという発想が生まれました。
Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。
作品《やどかりに「やど」をわたしてみる》
やどかりは成長にともない、違う貝殻へ引っ越しを行います。時に、力の強い別のやどかりによって、貝殻の交換を強いられることもあります。そこで、ニューヨーク、ベルリン、グアヤキル、東京などの世界各地の都市をデザインした透明な殻をつくり、ヤドカリに託し、気に入れば引っ越しをしてもらいました。
この作品は、東京のフランス大使館の解体を記念して2009年に開催されたイベント”No Man’s Land”展をきっかけにスタートしています。フランス大使館が位置していた土地は日本領ではなくフランス領だと聞いて、驚きました。2009年の大使館の解体の際に日本に返還されましたが、その後60年ののち、またフランス領に返されると聞きました。この話がヤドカリの習性と結びつき、作品制作へのインスピレーションとなっています。
貝殻からまた別の貝殻に引っ越すことで、やどかりは劇的に外見を変えていきます。私には、このことから人間が都市から都市へと引っ越しをしたり、ときには国籍を変更したりすることが想起させられました。
この作品は、発表後しばらく経って、ウェブメディアdesignboomで取り上げられたことで、世界各地の展覧会で展示されるようになっていきました。ウェブメディアをきっかけに、世界中を旅する作品になったのです。
Q4 今回掲載した作品について、教えてください。
過去の展覧会風景から、時系列を無視して、ビジュアル的にグラデーションになるようセレクトした画像を並べていきました。もちろん、サイトにアクセスする人が見られるのは1日に1枚のみ。全ての画像を順に見ていけるわけではないのですが(苦笑)。昨日と繋がっていつつも、刻々と姿を変えていく季節のようなイメージで、日々の変化を楽しんでいただけたら幸いです。
写真のセレクトをしていて、そういえばこんな展示もあったな、タイは暑かったな、石彫は制作も移動も大変だったな、木彫の上にカマキリが載っている写真をスタッフの方が送ってくれて嬉しかったな......などなど、忘れていた記憶が次々と蘇っきて、こみ上げるものがありました。アーティスト活動を通して、色んなところに行って、色んなことをしてきました。アクセスしてくださった方にとっても、時空を行き来するような、そんな体験に少しでもなりますように、と願ってます。
Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。
近藤滋『いきもののカタチ 続・波紋と螺旋とフィボナッチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則 』(学研プラス、2021)
「いきものの模様やカタチがどうやって生まれているのか?」
その謎に近藤先生と研究室メンバーらが迫った10のストーリーが紹介されています。謎を解明するという意味では、ミステリーのようでもあり......。読者である自分が、まるで自然科学の研究者になってその謎を解明していくようなリアリティを持って読める1冊です。
実は、いきものや自然現象と向き合うと、次々と「螺旋形」に出会います。例えば、ヤドカリが背負う巻貝は螺旋形。ビーバーが齧った木にも螺旋形!(これはビーバーが硬い部分を避けて齧った結果、フィボナッチ数列に沿って生えている木の枝の節が残されたことによるのではないか?と私は考えています。)そして最近ずっと作品《昨日の空を思い出す》のために、雲を観察しているのですが、雲も螺旋状に生成されたり、変化していくことがあり、驚いています。

- AKI INOMATA
- 2008年東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻 修了。東京在住。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。主な作品に、《やどかりに「やど」をわたしてみる》(2009-制作中)、《犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう》(2014)など。主な個展に、十和田市現代美術館(2019年、青森)、北九州市立美術館(2019年、福岡)、ナント美術館(2018年、フランス)。国際展・グループ展に、「あいち2022」(2022年、愛知)、「Broken Nature」ニューヨーク近代美術館(2021年、米国)、第22回ミラノ・トリエンナーレ(2019年、トリエンナーレデザイン美術館、イタリア)、タイ・ビエンナーレ2018(クラビ)など。作品の主な収蔵先に、ニューヨーク近代美術館、南オーストラリア州立美術館、金沢21世紀美術館、北九州市立美術館など。Photo: Sakiko Nomura