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作家への5つの質問

2023年8月のd View

津田道子《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。| You would come back there to see me again the following day. 》(2016)
撮影:山本糾/会場:ICC

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    Q1 あなたにとっての原風景を教えてください。

    引越しが多かったので、どこか特定の土地の記憶はほとんどないです。多くはニュータウンといわれる山を切り崩して作った土地に建てられた家に住んで、それぞれの場所は、似たものの組み合わせでできているバージョン違い、という印象を持っていました。

    幼稚園から小学校で4回転校して、転校初日に知らない人たちの中に入っていく時の感触はいまでも覚えてます。転校した先の教室に向かう時、新しく出会う人たちとどう付き合っていくか、仲良くなれる人を見つけられるか、わからないけどとにかく教室に向かう時に、考えても仕方ないし、できるだけ先入観を持たずに、フラットに接して行こうと思いました。

    Q2 あなたをもっとも遠くに誘った作品や体験がありましたら、教えてください。

    国際電話をかける時に使うための、都市の時差が一目でわかるカードを見て、頭の中で世界旅行をしていました。検索したら、「時差早見ダイヤル」という名前がついてるようです。カードに描かれた円の上に、東京、ロンドン、ニューヨーク、北京、シドニー、サンパウロ、モスクワ、ホノルル……など都市の名前がならんでいて、時間が書かれた円盤をその円の上で回して使います。「日本」と書かれた位置に、その時の日本時間を合わせると、それぞれの都市の時間がわかるようになっていて、それをクルクル回して、「日本はいま夜だけど朝のところがあるんだ……」と異なる土地の時間を想像していました。

    2001年のアメリカ同時多発テロ事件をニュースで見て、遠く離れたニューヨークやワシントンD.C.のことを思う時にも、このダイヤルのことを思い出しながら、物理的に遠い世界は確実にあるということにもっと実感を持ちたいと思いました。当時は工学系の大学生だったのですが、翌年芸術系の大学を受験しました。

    Q3 作家として視界が開けたと感じた作品がありましたら、教えてください。

    《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。》は、ふっとでてきて、15分くらいでまとまったプランでしたが、自分の予想を超える作品になって「頭の中にあることが形になることがあるんだ!」と、独特の腑に落ちる感覚がありました。それだけでなく、過去作からの展開でもあったので、プランにするまでの間に制作を通して数年間考えていたことを見ているようで、同時に自分を見てるような気持ちになりました。

    このときの手ごたえから、空間に身を置いた時の感触を体内に留めるように大事にしてぐっと考えて、偶然見つけたことや起こることを取り込みつつ、絞り込むように作品を作るといった具合に、空間に対する態度を決めたような感覚がありました(わかるでしょうか......)。この頃から10年以上経って、考えたり、感触を持ったり、空間の中に置く身体自体が変わってきているので、まだいくらでも方向性は変わると思います。

    Q4 今回掲載した作品について、教えてください。

    10年以上前の作品から近作まで、身体と空間の間に起こる即興性を扱っていると思っています。と書くとクールですが、よく手と頭と身体を動かして、実験と試行錯誤のプロセスがしっかりあった作品たちだと思います。

    写真は、一枚しか選べないならこれ、という時に選ぶものではなく、少し中心からそれているようなものを選びました。オフショットだな、と思うものもあります。

    Q5 あなたの指針になっている言葉・本などがありましたら教えてください。

    たくさんあって、あえてあげるものはない気がしますが、小学校高学年か中学生の頃に父親に薦められてErich Fromm(エーリッヒ・フロム)のThe Art of Lovingを読んで、今もその本は持ってます。内容よりも、タイトルの日本語訳が、『愛するということ』とあって、邦題に「アート」も「芸術」もなく、「〜〜ということ」が“The Art”なんだ、と思ったことを何度も思い出します。何かを定義すること、何かの行為やその本質を示すことが“Art”なのだと“Art”を広く捉えて、そこに近づこうとすることが制作する時の指針になっていると思います。

    生活する中にもつながってくる考え方で、ポスターが剥がれてるのを見つけた時にそっと貼り直したり、家の外のトイレでトイレットペーパーがなくなった時に、新しいロールに交換するといった、やらなくてもいいことに働きかけることの延長に“Art”があるかもしれないと思ってます。目の前のことをよく見ていると、しなくてもいいことだけど、そのままにしないで関わっていけることは無数にあって、そのセンサーをしっかり働かせることは、いつもなんとなく覚えているようにしてます。

    津田道子
    1980年神奈川生まれ。インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多様な形態で、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作。2016年より神村恵とのユニット「乳歯」としてパフォーマンスを行う。主な個展に、2020年「Trilogue」(TARO NASU)、2017年「Observing Forest」(Zarya現代美術センター、ウラジオストク)など。主な展覧会に、2020年「Arts Towada十周年記念 インター+プレイ展 第1期」(十和田市現代美術)、2019年「あいちトリエンナーレ2019: 情の時代(Taming Y/Our Passion)」(四間道会場 伊藤家住宅)、「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(森美術館)などがある。2013年東京芸術大学大学院映像研究科で博士号を取得。2019年ACCのグランティとしてニューヨークに滞在。2021年より金沢美術工芸大学准教授。Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞。写真:奥祐司

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