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Part1 10のキーワードで知るイソザキ

10.群島 ユートピア

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    磯崎新は1994年に「海市計画」を発表する。海市は中国の珠海市に計画された人工島で、400ヘクタールほどの広さを持つ。島の形は風水によって定められ、その内部にはコンピューター・アルゴリズムによる道路が引かれる。この計画は、磯崎によるユートピアの再検討であった。ちなみに「海市」とは、もともと蜃気楼の異称である。

    実現はしなかったこの「海市」というプロジェクトで、磯崎は大陸から離れて海に浮かぶ島という存在を強く意識するようになる。そこには、権威から離れて存在する自らの立ち位置と、島を重ねて見る視点もあっただろう。そして島がバラバラに位置して緩やかに結びつく、群島というあり方に魅了されていく。

    日本文化の特質は島国であることに由来するとみなし、世界各地で建設された城壁都市も海に浮かぶ島と捉えた。さらには、均質化した都市の中もまた、伝統、風習、趣味などによって分かれた〈島〉で成り立っている。「都市は海の上に浮いている。その内部にも海をとりこんで、無数の島々に身分けできる。群島になった」(「〈しま〉の析出」『記号の海に浮かぶ〈しま〉』2013年、所収)

    磯崎は2016年に開催されるオリンピックを福岡に招致するための組織で制作総指揮者を務め(2005-06年)、博多湾を囲む3カ所に競技施設群を配置し、これらを海路で結ぶ会場計画を提案する。ここでも群島のイメージが下敷きとなっている。

    都市から〈島〉へ。20世紀から21世紀への変化を、磯崎はそのようにとらえた。そして最晩年になって、自らの住処も海の向こうにある沖縄へと移したのであった。

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    イラスト:宮沢洋
    1967年生まれ。編集者、画文家。大学卒業後、日経BP社入社。建築学科卒ではなかったが『日経アーキテクチュア』編集部に配属。その後、『日経アーキテクチュア』編集長(2016-2019)を経て、2020年独立。2020年4月から磯達雄とOffice Bungaを共同主宰。主な著書に、『日本の水族館 五十三次』(青幻舎)、『隈研吾建築図鑑』(日経BP社)、『建築巡礼』シリーズ(磯達雄との共著、日経BP社)など。
    テキスト:磯達雄
    1963年生まれ。建築ジャーナリスト。大学卒業後、『日経アーキテクチュア』編集部勤務。2000年に独立後、2002年から編集事務所フリックスタジオを共同主宰。2020年4月から宮沢洋とOffice Bungaを共同主宰。主な著書に『日本のブルータリズム建築』(共著、トゥーヴァージンズ)、『ぼくらが夢見た未来都市』(共著、PHP新書)、『建築巡礼』シリーズ(宮沢洋との共著、日経BP社)など。

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