IC21-12

World, Membrance and Dismembered Body

存在、皮膜、分断された身体

[掲載日:]

World, Membrane and Dismembered Bodyの画像
存在、皮膜、分断された身体| World, Membrane and Dismembered Body (1997) ICCコレクション
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
撮影:大高隆

音が反響しない無響室の特殊な空間.身体の奥から発生する自身の体内音.
そしてスピーカーから流れてくるリアルタイムに増幅された体内音.
その二つの音のズレが,身体と思考の間に分離を生む.
肉体としての身体感覚が消滅し,断片化された諸感覚が覚醒する.
身体器官の音を空間に拡張・変容させていく「知覚による建築」を提示する作品.

このプロジェクトは,無響室内に設置された身体内音測定スコープとコンピュータ・プログラムにより体験者の身体器官の音を空間内に拡張,変容させていく「知覚による建築」を提示する.可聴化された体験者の身体音は自らの耳をインターフェイスとして身体内にフィードバックされていく.また数値化された心臓,肺,血液循環などの器官音はパラメータとなって3D画像のポリゴンを継続的に変化させ音と画像が同時に無響室内に現われる.

World, Membrane and Dismembered Bodyの画像
存在、皮膜、分断された身体| World, Membrane and Dismembered Body (1997)  ICCコレクション
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
撮影:大高隆

わずかな身体内の音が体の内部の膜を反響している状態と,それが体外へ増幅され無響室内でズレを起こしながら反響している二重の状態がリアルタイムで起こるので身体も環境も対象ではなくなり,その間に存在する「耳」という媒介システムがインターメディアとなって現われ,聴覚と場の知覚コードのようなものを表現させる.知覚コードといっても作品制作上ではそれは「耳は聞くものではなくて,眼は見るものではない」といった抽象的な表現である.

体験者身体の断片(耳/聴覚)は心音という心理状態を含む不規則なデータの集積回路となって,一秒一秒の心象の変化によっても作用される.つまり,心臓を鼓動させ変化させようとする無響室内の身体反応と,その結果身体の外に出た音の動きに違和感が生ずる.

心音は途中で外圧のようなものがあると,それに振り回されてしまい,聞いている音とコントロールしようとする思考の間に分離がおこる.そのため,ある種肉体が消滅した感覚を抱く.自らが抽象的なデータとしての存在となり,諸感覚だけが覚醒する.身体という主体が姿を消して断片化されたバラバラの身体を意識することになる.

〈身体内ノイズと無響室〉

無響室は音の反響がない特殊な空間である.しかし無響室においては沈黙は存在せず,つねに音が存在する.それは自分の身体内のノイズである.長い間そこに居ると身体の内に脈打つ血と肺の音が支配してくるような錯覚がある.身体の内部の膜を反響しながら,身体の肉の中で発する音(心音,肺,血脈,おなかがゴロゴロする音など)を聞いていくと,私自身も音を出す存在であると認識する.心音は一番底辺の自己表現ともいえる.

私はプログラムを組むという数学的な行為がどう知覚や身体と影響していくかを試みてきているが,知覚世界の全幅にあいまいさが拡がっているのを再認識する.心音のパラメータはいつもふらふらしたものであるし,このプロジェクトの設定が個々の〈意識〉状態の体験であるために,体験中も憶測の解体を繰り返している.

聴覚にとっては体内音は身体以前のものであるので,自分の心音を自分の耳で聞くという行為が自己を触発する.私の身体と私の間には距離があり,その距離を耳が媒介していく.自分の身体が無響室の中にある在り方は,ちょうど心臓が生体の中にある在り方と同様のように思う.しかし自分の体の内部が見えるという視覚的な刺激はそこにはない.もっと聴覚的な体験で通常よりも耳を意識するようになり巨大な耳の中にいるような印象も受ける.

〈聴覚〉

無響室に入室すると,音の反射がまったくないせいか,耳は生きていないかのようだ.もともと耳という形自体も退化した化石のような印象がある.耳には,眼と違って二重化された表現はあまりなく,耳は自分が聞いているということを示さない.人間の耳は自由には動かない.つまり眼は閉じることによってある情報を遮断することができるが,耳は自らの力でそれを受け入れないようにすることはできない.

体験者の耳は体外に出た自らの音を身体という反響体の中に入れて身体の奥深くの膜に鳴り響かせ振動させる.人は後ろに気配を感じるようにこのプロジェクトでは耳は見えていないエリアに触覚をのばし距離を数値化する.耳は知覚する主観と知覚される世界の間にあるものを感知できる空間位置センサーとして機能する.

〈感知―知覚建築〉

World, Membrane and Dismembered Bodyの画像

VRの世界でも,聴覚は視覚の補助として機能していることが多い.しかし視覚は瞬間的には注意の向いている空間のほんの一部しか高い解像度で認識することができないが聴覚は全周囲からの感知がつねに可能である.多くの警報が音で伝えられている.

今回のプロジェクトでは音の三次元表現により聴覚系のレンダリングを試みている.アルゴリズム的にも心象や身体内音の波形データを時間軸状に伸ばしたり縮めたりすることによって身体内情報と連動して繰り返して変形していく.

World, Membrane and Dismembered Bodyの画像
World, Membrane and Dismembered Bodyの画像
重力と抵抗|gravicells-gravity and resistance(2004/市川創太との共作)
撮影:萩原健一/写真提供:山口情報芸術センター[YCMA]
MIKAMI Seiko 三上晴子
1961年生まれ.ニューヨーク工科大学コンピュータ・サイエンス修士.ニューヨーク在住.主な個展に,90年「lnformation Weapon 1: Super Clean Room」トーヨコ地球環境研究所クリーンルーム・横浜,93年「Transfer」Galerie Hubert Winter(ウィーン),95年「Molecular Clinic 1.0」ARTLAB/WWW,96年「Molecular Informatics: Morphogenic Substance Via Eye Tracking]キャノン・アートラボ/ヒルサイドプラザ(東京).グループ展に,92年「Art In The Anchorage」Creative Time(ニューヨーク),93年「Out of Town」イリノイ大学クラナート美術館.94年「アート・ラビリンス」岡山県立美術館,95年「JAPAN TODAY]ルイジアナ美術館(デンマーク,フムルベック)ほか北欧4カ国巡回,96年「Urban Structures」 Kulturreferat Munchen (ミュンヘン)「DEAF96] V2_Organisatie (ロッテルダム)ほか,国内外で個展.グループ展多数.

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