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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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大学を卒業して上京した、社会人1年目の冬。骨董の魅力に取り憑かれ、毎週のように骨董市へ通いました。
 
都会のムードに飲み込まれ、新しさを求め過ぎていた当時の自分にとって、そこに並ぶ素朴なオブジェクトは、なんだかほっとさせてくれるもので、むしろ新鮮に感じたのです。ブランドの概念などに左右されず、その時々の自分の興味が素直に映し出される面白さにハマりました。 

ある日の骨董市で、ひと際存在感を放つ「木の球」と出会いました。その正体は、ペタンクというスポーツの前身、ブール・リヨネーズで使われた木の球でした。投げられ傷ついて生まれたテクスチャの表情がとても美しいのですが、いちばん驚いたのは部分的に打ち込まれた手製の釘でした。摩耗を防ぐための工夫らしいのですが、その球には几帳面にグリッドが引かれ、その交点に規則正しく釘が並んでいたのです。僕は、その徹底ぶりから生まれている、道具が纏うパワーに度肝を抜かれました。かつてのある日、名もなきペタンクプレイヤーがコツコツと釘を打ち込んだ、愛おしいデザイン。 

道具が、素材が、モノ語ることがある。それを木の球から教わりました。それから僕はデザイナーとして、道具を通してこの世界の豊かさを感じられるデザインをしたいと思うようになったのでした。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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本をめくりふと目に留まるような、思いもよらない出会い。レコメンドから解き放たれた、自然とあるべき選択肢との出会い。そういった、コンテンツとの出会いかたを大切にできるウェブメディアを期待します。 

それは、目的地までの最短経路を急ぐような現代の私たちに、「回り道もいいかもしれない」と、気ままな寄り道を楽しむ余裕すらも与えてくれる気がします。

時岡翔太郎 デザイナー

21B STUDIO共同主宰。1995年生まれ。プロダクトデザイン事務所に勤務しながら、有村大治郎、コエダ小林とともにデザインスタジオ21B STUDIOを結成。「よりやわらかな発想で、芯のあるアイデアを。」を掲げ、活動している。