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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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弥勒菩薩の仏像です。いきなり仏様の名前を出してもピンとこない人も多いかもしれませんが、広隆寺(京都太秦)の半跏思惟像、と言われれば思い出すでしょうか。飛鳥時代の解説としてどんな歴史の教科書にも必ず掲載されている国宝第一号です。大乗仏教の経典によると、釈尊(ゴータマ)の死後、次のブッダとして弥勒菩薩は 56億7千万後にこの世に現れ、多くの人々を救済するそうです。

人間一人の個体はたかだが100年生きるだけでも大変なのに、56億7千万後!50億年後には太陽すら寿命を迎え、地球は太陽に飲み込まれるとも言われています。人類がそれまで生き延びているのかどうかもわかりませんが、仏教という形式ではそんな途方もないスケールで未来のストーリーをつくりだして共有することができるんだ、と若い頃に衝撃を受けました。あちこちの古い寺院で弥勒菩薩像を見るたび、古ぼけた仏像の中に込められた、想像もできないほどの超未来に思いを馳せてしまいます。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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紙版ではすみずみまで配慮されていて素敵だな、と思っている雑誌も、ウェブ版ではスクロールするうちに扇情的な広告や身体的コンプレックスを指摘してくる広告のほうが目についてしまうことも多く、編集側の葛藤を想像するとなかなか切ないものがあります。

アテンション・エコノミーが強まる時代ですが、読者の気を散らさせるのではなく、コンテンツに集中させてくれるメディアに期待したいところです。

上平崇仁 デザイン研究者

専修大学ネットワーク情報学部教授。1972年生まれ。社会性や当事者性への問題意識から、デザイナーだけでは手に負えない複雑/厄介な問題に取り組むためのコ・デザインの仕組みづくりや、人類学の視点を取り入れた自律的なデザイン理論について研究している。