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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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社会のスタンダードからこぼれ落ちることが、何よりも私を遠くへ、そして新しい場所へと運んでくれたように思う。中学のころ、不登校だった私にある医師が「せっかく学校に行っていないのだから、好きなことをたくさんするといい」と言ってくれたことがあった。それをきっかけに、ほかの子のように学校に行けない自分を受け入れ、開き直るように、気になるものから片っ端に本を読んで、映画を見て、音楽を聴いて、勉強をした。それがいまの私の基盤になった。哲学という「役に立たない学問」の代名詞とされがちな分野で大学院に行くことにしたときにも、どうがんばっても男性ではないらしき自分を受け入れて性別移行を始めたときにも、私はたくさん本を読み、たくさんのひとと話した。自分がいまどこにいるのか、何をしようとしているのかもわからず、不安だった。それでも、そのたびごとに私は、昔の私から一歩ずつ遠くに進んできたのだと思う。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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ウェブ媒体に限らないが、国内の多くのメディアは受け手の「常識」に合わせすぎ、受け手を新しい世界へ連れ出すことを恐れているように見える。それが特にビビッドに感じられるのは、映画やゲームにおけるクィア表象についてだ。同じ作品でも、英語圏だとどんなクィアなキャラが登場し、どんな優れた、あるいは問題のある描写があるか、それをクィアなファンたちはどう受け止めているかなど、いろいろな情報が手に入る。ところが日本語で調べた途端に、それらの情報にまったくアクセスできないなどということが起こる。「閉じこもっている」と感じる。あえて情報を隠し、想定されている受け手の「常識」を揺さぶらないようにしているように見える。いろいろなフィクション作品の作者たちが、がんばって受け手の「常識」を揺さぶり、新しい表象を試みているのだ。メディアにはせめてそれについていくか、できたらそれをリードするくらいになってほしい。

三木那由他 哲学者

大阪大学大学院人文学研究科講師。1985年生まれ。分析哲学を専門とし、特に言語とコミュニケーションの哲学を研究している。