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あなたをこれまで最も遠くへ誘ってくれたもの(こと)はなんですか?

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物心ついたころから、いつかヨーロッパに行ってみたい、と思ってきました。けれど、魅力的な場所が多すぎて、なかなか絞り込めず、かといってヨーロッパ各地を回るお金も時間もつくれず、ぼやぼやしているうちに30歳の誕生日を迎えていました。

その頃、たまたまフランスからインターンシップで日本にやってきた同僚と友人になりました。仲良くなったきっかけは、「姉御は松本零士とDaft Punkのコラボレーション、好き?」という、私の趣味を見透かしたような彼女からの言葉だったと記憶しています。彼女が帰国する日、私は思わず「あなたの家に行く」と言い、「必ずね」と返してくれた彼女に応えたくて、1ヶ月後にはフランスのモー(Meaux)にたどり着いていました。

彼女の家族と一緒に食べた、ルーツであるトルコ料理の味。彼女が小さい頃によく遊んだという、名前もついていないであろう小さな広場。彼女が「枝葉が血管みたいで、怖いけどきれいでしょ」と言って、一緒に見上げた並木道。そのとき私は、どこか懐かしいような、けれど、自分の暮らしてきた経験とは圧倒的に違うような、「近くて遠い」としか言いようのない気持ちを抱いていたように思います。

偶然の出会いをなかば強引に引き寄せて旅をすること。そこで、一見すると矛盾するような感情を持つこと。旅をする機会がぐっと減った今、そういう偶然が再び訪れたらいいなと思っています。

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既存のウェブメディアに不満を感じること、またこれからのウェブメディアに期待することはなんですか?

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ウェブメディアは紙媒体に比べて容易に更新可能であることは、良い特徴とも悪い特徴とも捉えられると思っています。一度情報をオープンにしたあとで修正できたり、言葉足らずな部分を補足できることは良い点ですが、いつでも何度でも修正可能であることは、最初に情報をオープンにするときの良い緊張感や、作品をお披露目するときの「晴れがましさ」が損なわれるようにも思います。容易に更新できる利便性と、緊張感や「晴れがましさ」のバランスがとれたメディアのあり方はないものだろうか、と思っています。

高森順子 社会心理学者

情報科学芸術大学院大学[IAMAS]研究員。1984年生まれ。グループ・ダイナミックスの見地から阪神・淡路大震災の経験を表現する人々とともに実践的研究を行い、被災体験の分有のあり方について研究している。